※導入で飽きた青エク夢小説



「うたうことが好きなんだ」

だから、詠唱騎士になったわけではない。確かに自分はうたうように悪魔を倒していくルーキーがいるだなんて、騒がれたりなんだりしたが、それは決して本意ではなかったことを言っておく。今はもう手騎士と騎士の資格も持っていて、そちらばかりを使うようになってしまった。私が詠唱騎士だということは、このまま忘れてもらって構わない、なんて。



「本日付けで京都出張所に配属になりました、深見啓と申します。どうかよろしくお願いします。」

顔を上げて前を見据える。わざわざ皆が集まる朝礼の時に自己紹介なんて、と少しげんなりしながら、ぎこちなく笑顔を作った。
所長の解散、と言う声と共に集まった人々が霧散していった。初出仕の場でもう知り合いがいるとかそんなはずもあるわけなく、一人で朝食の席に着く。仕方ないとは思いつつ耳につくのは自分に向けられる言葉。―――今日は長い一日になりそうだ、なんて、出そうになった溜息を味噌汁で流し込んだ。



「深見はん、午後から人きはるから、桜の間片しといて!あ、桜の間っていうのは2階の右端で――」
「書類はー深見さんー!間に合わへんよー!」
「ここに書いたもん2時までに買ってきてな、お願い!」
「じゃあこのシートの上に置いてはる奴等の封印頼むわ!」


「つ、疲れた…」
そんなこんなで、ようやく仕事が終わったのは日も暮れてから随分してだった。初日から容赦のない人使いだったと素直に思う。
(それだけ人手不足なのか…)
一人納得すれば、そういえば昼食も夕食もまだであったことを思い出す。今から台所に行けば何か恵んでもらえるだろうか。しかし時刻は既に深夜12時をまわっている為、なんだか行くのが憚られる。
迷惑ではないだろうかとは思いつつ空腹には負け気味で、廊下を踏み締める度に鳴る音に耳を澄ます。自分の音しか聞こえない。

「啓はん」
「え」

ふいに呼ばれた自分の名前。ぎくりとして辺りを見回し声の主を探せば、こっちや、といきなり手を引かれる。
暗くて顔もよく見えない上、わけも分からないのでしばらく任せるままにしていた。が、その手がどんどん台所とは離れる方向へ引っ張っているのに気づき、慌てて手を振り払い立ち止まらせ、一声尋ねた。

「誰だ」

当人はまさか振り払われるとは思っていなかったらしく一瞬ぽかんと口を開けていたが、じっと見詰める視線に気づいたのか慌てて口を閉じた。月の光が射しているおかげで、もう互いの顔は見えている。

「あ、俺は志摩 志摩柔造っていうんやけど…覚えてないか」
「残念ながら」
「朝礼の時お父…違う、所長の隣にいたんやけど」

残念ながら本当に覚えていなくて無言でそれを示すと、彼は苦笑いしながら頭を掻いた。この人は志摩柔造というらしい。





ここまで書いてなんか満足してしまった




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