震える身体が、震える身体を掻き抱いている。
みちるがパニックに陥りかけたとき、消えそうな掠れ声が直接耳に吹き込まれた。
「…………僕を置いて行くな」
思考する隙間も与えずに、唇は髪に割り入り うなじを強か噛み締める。
一層のこと混乱するそのあいだにも、後ろから回された手のひらがセーラー服に忍び込んで直接肌に触れ、下着をたくしあげて膨らみにまで到達する。
痛いくらいに握り込まれたのは確かにみちるの胸で、こんなときなのに、状況も理解できないまま、その激しい官能にみちるは喘いだ。
……と、唐突に、絡み付いた指も背中に張り付いた熱も、すうっと離れてゆく。
自然振り返った視線の先、暗がりで殆ど見えない筈なのに、ギラギラとした双眸が見据えていることをみちるははっきりと知覚した。
「邪魔だ」
「……、え?」
「邪魔だから、脱いで」
「はる、か……」
「早く」
それは命令だった。
はるかがみちるを手荒く扱ったことなどただの一度も無かったし、こんな物言いをされたことだって勿論無い。
今、はるかを支配しているものはあからさまな怒りで、有無を言わさぬ眼前に、みちるはその身を晒すほか無いのだと知る。
指先が震えてどうしようもなかったけれども、従い、制服の釦を外して分厚い臙脂色を取り去れば、素肌が冷えた空気に触れた。
淡い色のキャミソールも、繊細な細工のブラシェールも、闇に呑まれて無様に色彩を失っている。
後ろ手にホックを外したとき、羞恥からわけもわからず涙が滲んだ。
はるかが暗がりにも決して目を逸らさないことは理解っていたから、代わりにきつく目を瞑り、最後の一枚を床に落とす。
「…………脱いだわ……」
いくら待てども言葉は無く、触れてもこないから告げたのに、なお反応が返ってこない。
「はるか……?」
「下は? 全部だ」
あんまりな要求に、みちるはとうとう涙を溢して(出逢ってからこのかた一度だって落としはしなかったのに)、それでも命令に背くなど、考えも及ばないのだった。
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