day...ヘリオトロープの海 | ナノ








メアリー・マグダレン




身体を組み敷けばその唇からはいつだって、拒絶をはじき出す。そのくせ抵抗しない女の子、それが私のプリンセス。
あら? いいえ違ったわ、“私たちの”……ね。ズルい。
アンタは私のものじゃないけれども、私ははるか彼方、未来永劫アンタのものだなんてそんなの。ズルいズルい。
今日は元気が無いのね、王子様と喧嘩したのだものね、無理ないわ。それでもって、こういう時分アンタは必ず私の処を訪れるのよ。


――ねぇ聞いてぇ、喧嘩しちゃったよぉ、怒ってるかな? 怒ってるよね? でも、でもあたし悪くないもん。悪くない。……だって、だけど、キライになっちゃったかな? あたしのことキライになっちゃったらどうしよ、そんなのやだよ、ねぇ、


ああ煩いプリンセス。
私を訪ねたらどうなるかだなんて、アンタいい加減知っているでしょうに。ズルいズルいズルい。


「知らないわよアンタのことなんか、」
「そんなぁ!」
「はやく帰って電話でもしたら? きっと待ってくれているわ」
「でも、でも、まだ怒ってるかもしれないよ……?」
「自分で解決なさい! もう、子供じゃないんだから!」


私たちのプリンセスは泣くのがお上手。気取らず躊躇わず、いい歳しといて『びええー』だなんて、身も世もなく。
私は運命を同じくする彼女たちのように優しくなだめることも、ましてや王子さながらに愛を囁くことも無い。そんなのは望まれて、ない。――の癖にこのバカなプリンセスときたら、愛しいひとと拗れたときに一番にやって来るのが私のもとなのだから浮かばれない。勿論、私が、だ。
ほら今だって、『中に入れて』……とびきりに瞳を潤ませそう、訴えている。
ズルいズルいズルいズルい。




**


はじまりがいつだったのか、もう思い出せない。と、言うより、思い出すのも億劫だ。
大体にしてなぁに、アンタが私を訪ねてくるとき、なんだっていつもずぶ濡れなのよ。
お天気まで操れるのね。バカほど怖いものって無いわ。
そうするとほら、タオルを差し出すしかないじゃない。アンタはそれでさっさと拭いて、お風呂を貸してほしいとでも提案すればいいのに、決まってこう言うの。「レイちゃん……拭いて?」
ほら、ほら。わかってた。わかってる。
どこまでが天然でどこからが計算なのだか、今更言及する気も起きないけれど、まぁ、仮に最初が天然の成せる技としてよ? 今も“そう”だなんて言わせないわ。
多分に情欲を含んだ瞳でじりっと私を見上げる、アンタは、私の……、違った。


私たちの、プリンセス。



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