少しずつ変わっていく



ぐいっと肩を引かれ、唇にあたたかいものが触れた。またか、またお前か。隣に座っている松風をみると、さっきのことは知らん顔をしていつものようににニコニコしながら、鼻歌を歌っていた。今日はいつにも増して上機嫌らしい。


ガタンゴトンと、揺れる電車のリズムが何だか心地良かった。少し遠くに行ってみよう、と松風に誘われ、行き先も分からないまま電車に乗せられて30分ぐらいが経った。俺達以外にはほぼ人が居ない車内は、ふたりにはあまりにも広すぎたが、広いのにも関わらず松風は俺の隣にぴったりとくっついて座っていた。




松風に告白されて一週間が経った。『好きだ』と面と向かって言われた事は初めてではないが、男に言われたのは初めてだった。でも、松風も別に告白したからどうこうしようと考えている訳でもなく。俺も返事とか、これからどうしようということは考えていなかった。


松風の隣は居心地がいい。変に媚びを売るでもなく、他の奴らみたいに避けて通らない。何かと隣にいて、でもあまり干渉しない、俺はこの距離が好きだった。


告白されて変わった事といえば、松風が俺にキスをするようになった事だろうか。初めてキスされた時は少し驚いたが別に嫌な気分にもならなかったし、それ以来ちょくちょくキスをしてくるようになった。


キスをされるのが嫌ではない、ということは、世間一般では『好き』の部類に入るのだという。兄さんに訊いてみたところ、そう言われた。兄さんはにこりとして、また天馬くんを連れて来てね、と続けた事を思い出した。


俺はみんなが言うこの『好き』という気持ちがあまり理解出来なかった。『好き』という気持ちは一体どういったものなんだろう。



「松、風…」

また兄さんのところについて来てくれるか、と訊こうとして松風を見たら、いつの間にか奴は眠っていた。俺は行き先も知らないのにどうすればいいんだよ。

『好き』についても訊いてみようと思ったのに。


そっと、松風の唇に自分の唇を重ねた。なんだかキスがしたい気分だった。




ーーーーー

「…え!?今剣城俺にキスし「うるせえはやく起きろ!!」」




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