君と僕とこの距離
「だだいま」
突然、その人が帰ってきた。
ふわりといつもの笑みを浮かべ、すこし照れくさそうにして頭を掻いている南沢さんは、俺が最後に会った時より大人びて見えた。
視界には南沢さんが入っているし、声も間違いなく南沢さんだけれど、彼が帰ってきたという事実を頭が理解してくれずに、声をかけられた時のままの体勢で立ち尽くす。
「なんだよ、その顔」
棒立ちになった俺を、くすくすと南沢さんが笑う。
「なん、で」
何で此処にいるんですか、という思いは、かすれて言葉にならなかった。
「何でって…そんなの決まってるだろ」
ゆっくりと、南沢さんがこっちに歩いてくる。
ああ、あんなに思い描いていた瞬間がきたっていうのに、考えていた言葉のひとつも口に出せない。
俺と一歩分の距離を空けて、南沢さんは止まった。
「お前に、会いたかったからだよ」
その言葉を聞いた瞬間、抑えきれない思いが溢れてきた。たまらず顔を伏せる。くそ、こんなの俺のキャラじゃねえだろ、我慢しろよ俺。
「何だお前、泣いてんの?」
小馬鹿にしたような顔で笑っているのが、見なくても分かった。
ふわりと引き寄せられ、抱き締められる。久しぶりに南沢さんに触れた。南沢さんの胸板に顔をうずめる。あの時と、最後に別れた時と同じ匂いがした。
「…泣いてないですよ、バカ」
今はこれが精一杯だった。
ーーーーー
お題サイト 雲の空耳と独り言+α様より
- 2 -
[*前] | [次#]
ページ: