拒否権はキスと引換えに
「イヤ、だ」
ふるふると首を振る剣城。
今は昼休み、授業開始15分前。
屋上にはもう、人は俺達以外にはいなくなっていた。
「何で?」
壁と俺の手で囲って逃げれなくする。
「だって、こんなのは…」
だんだんと剣城の目に涙が浮かんできた。
「こんなのってなあに?」
わざとらしく聞いてみた。
案の定剣城は口をパクパクさせている。
「今ここでパンツ脱いで俺の前で自慰して俺に精子飲ませること?」
それを言うと、また剣城は顔を真っ赤にさせて目を潤ませた。
本当に剣城は可愛いと思う。
昔はもう取り付く島がないって感じだったけれど、今は少し丸くなった。
普段の剣城はちょっと恐いけれど、こういう時の剣城は本当に可愛い。
力ずくで俺をはねのければいいのに、絶対にそれをしないのだ。俺ってもしかして愛されてる?
「ねえ剣城、」
シてよ、と囁く。
「でもっ」
分かってる。プライドの高い剣城は絶対に真昼に外でこんなことはしない。
しないと分かっているからこそ言えることでもあるのだが、こんなことを言う一番の理由は『可愛い剣城が見たいから』。
まあ、そのプライドも少しずつ崩してはいるのだが。
「…どうしても?」
俺がそう聞くと、こくこくと剣城が頷いた。
「…なら、分かってるよね」
剣城から俺にキスしてよ。
剣城の白い首筋に顔をうずめる。少し歯をたてて噛むと、ぴくんと剣城の肩が跳ねた。
自分からキス、なんて剣城は情事でもない限り絶対にしてはくれなかったのだが、最近こういう『したくないこと』を断る時にはしてくれるようになった。
「…わかった」
ようやく剣城が口をひらいた。
剣城の首から顔を離し、じっと見つめる。
先程よりは落ち着いたのか、目いっぱいに溜まっていた涙はなくなっていたが、まだ上気した頬はとても色っぽく見えた。
目を閉じ、いつものように剣城を待つ。
ふわっとしたものが唇に当たった。
閉じていた目を開くと、ぎゅっと目を瞑った剣城の顔が目の前にある。
本当に触れるだけの小さなキス。
やっぱり愛されてるのかなぁと思いながら、微かに震える剣城の閉じた瞼を見つめた。
自分の唇を剣城の唇に押し付ける。コツンと剣城の頭と壁が当たる音がした。
このまま溶けそうなくらい甘いキスをするのもいいと思ったが、生憎授業開始5分前のチャイムが鳴ってしまった。
名残惜しいが、剣城から唇を離す。
やっと終わったとばかりに息をつく剣城の唇をぺろりと舐めた。
「ごちそうさま」
また真っ赤になった剣城が、とても愛しいなと思った。
剣城の唇は、さっき一緒に食べた板チョコのあまい味がした。
ーーーーー
お題サイト確かに恋だった様から
- 5 -
[*前] | [次#]
ページ: