冬のある日のこと



「…寒い」

思いっきり不機嫌な声のトーンで、隣で携帯を弄ってる鬼道に話しかけた。



もうかれこれ1時間は、ヤツの家に遊びに来たのはいいものの何もすることがなくてただソファーに座っている、という暇な時間を過ごしていた。
それに季節は冬、真冬である。暖房が効いている鬼道の家だとはいっても、ただじっとしているだけなら体は冷えるのだ。



「…!、あぁ、悪かった」

ばっと、鬼道は勢いよく顔をあげた。

どれくらい時間が過ぎたのかコイツはきっと分かっていないはずだ。いや絶対、そういう顔をしている。

「鬼道ちゃーん、どれくらいオレを待たせてたと思う?」

オレは渾身の笑みを浮かべて訊いた。

鬼道は気まずそうに笑いながら目を逸らす。少し考えるような仕草をしたあとに、おずおずと口を開いた。

「……30分?」

ちらりとこちらを見た鬼道と目が合った。

「1時間でぇーす」

あくまでにっこりして答える。

「…すまない」



鬼道はひとつの事に集中するとそれだけしか見えなくなってしまうという癖がある。
いや、癖っていうよりは、性格と言ったほうが合ってるのか。良く言えばひとつの事に集中できる、悪く言えば周りが見えなくなる。

今は悪いほうだな。



「大体さぁ、今日家に来いって言ったの鬼道ちゃんじゃん」

更に鬼道を追い込む。

立場が不利になっていくにつれてだんだんと変わっていく鬼道の表情をみるのが楽しいことに、最近気がついた。

「本当にすまない」

眉を下げて申し訳なさそうにする鬼道。

本当はそこまで怒ってはいないのだが。
いや、寒かったのにはちょっと堪えたけど。


「別にもういいけど…」

そう言った後に、とん、と鬼道の肩を押して覆いかぶさるような体勢にした。

「…!?、なっ、何をするんだ!」

驚いて目を丸くする鬼道。

「え、鬼道ちゃんの目的はこれじゃないんですか」

いつもコイツの家に来てすることといえば、おしゃべりをするか、宿題を手伝ってもらうか、そういうことをするかしかない。
今日は宿題も無いし、おしゃべりだっていつもはそんなにしない。

ならすることはひとつな訳で。

「違う違う今日はそんなのじゃない!!」

どんと肩を押し返されて、さっきと同じ座る形に戻った。

「えぇ〜、じゃあ何するの?」

自分の思いどおりにならなかったことが気に食わなくて少しイラっとする。

くそ、いつもならこれで流されるはずなのに…

じいっと、鬼道を非難するように見つめる。

「いや、たまには…」

小さな声で鬼道が言ったので肝心な最後の部分が聞き取れなかった。

「ごにょごにょしないでハッキリ言う!」

あーもう本当じれったい。

「…たまには、何もせずに一緒に寝たい」

オレが、言われた言葉を理解するより先に鬼道は立ち上がって、ひょいと抱え上げられ近くにあったベッドの中に押し込まれた。

「え、なに、ちょっと」

あまりに急だったので上手く言葉も出ない。

続けて鬼道もオレのすぐ隣にもぐり込む。
鬼道は少しもぞもぞしたあとに、脇に置いてあった枕を掴んで引き寄せた。

「寒かったんだろう?」

にやりと笑いながら鬼道がこちらを向いた。

オレは鬼道のこの顔が一番好きだ。

「…おう」


鬼道が差し出している枕を掴んだ。





たまには、こんな日があってもいいのかもしれない。


くすりと、ふたりで笑いあった。



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ちょっと意味不明

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