となりに座って
あいつはとても強い。
フィールドを駆けるあいつもそうだが、普段から完璧で人に弱いところを見せない。いや、見せないって言うより、無いって言った方が正しいのかもしれない。少なくとも、周りの人間にはそう見えていると思う。
それでも、あいつ、鬼道も人間な訳で。
いくら完璧であるって言ったって、人間である以上、誰しも弱いところがある。
普段は俺が甘える。思いっきり。
俺も周りのヤツらに弱いところを見せたくは無い。でも、誰かに分かってもらわなきゃ辛いときもある。本当は誰にも言いたくない、でも言わなくちゃどうしようも無いときに、もしひとり誰かを選ぶなら。
俺は鬼道を選んだ。
今日はたまたまそれが逆だっただけだ。
お互いに何があったのかは言わない。そして訊かない。ただ、ただ一緒にいるだけ。
でも、ただ一緒にいるだけでも、座っているだけでも伝わるものはきっとある。俺はそう思っている。
少しだけ触れ合っている肩から、ほんの少しだけ伝わってくるあいつの体温だとか。
ゆっくりしたリズムで刻まれるあいつの呼吸だとか。
そんな小さなことたちが積み重なって今に至る。
一緒にいるっていうのは、時間をふたりで共有しているということで。お互いに何を考えているのかわからないけど、その漠然とした事実さえあればそれでいいと思う。
静かに泣く鬼道を、俺は優しく抱き締めた。
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