何で、こんな


つまらない。

非常につまらない。

あんなに俺にくっついてたアイツが、こんなに簡単に離れていくなんて。

あんなに鬱陶しいと思ってたアイツが離れるだけで、こんなに苛々するなんて。




「喜多く〜ん!」

机の上に腰掛けへらりと笑いながら、西野空は俺に手を振っていた。

「あぁ、お早う」

隣の席に荷物を置く。椅子を引いて席に座ると、西野空も机から降りて自分の椅子に座った。


俺と西野空の席は隣どおしだ。

席替えのくじ引きを引いてこの席に移動した時は『あぁ、しまった』と思った。

俺は西野空のあのテンションが苦手だ。入学した時からそうだった、やたらと慣れ慣れしくしてべたべたと触ってくる。席が隣になってからは特にそうだった。


「ねぇねぇ喜多くん」

いつの間にか椅子を俺の席の近くに移動していた西野空がいった。

「なんだ」

「今日って席替えなんだよ、知ってた?」

へえ。今日はそんなイベントがあったのか。前に席替えをしてからもうそんなに経ったっけ。

ということはもうすぐコイツとはおさらば出来るってことか。

「また喜多くんと隣の席がいいなぁ」

へへへ、と笑いながら西野空が俺を見た。




結局、俺と西野空はばらばらの席になった。俺が後ろの方の席で、西野空が真ん中あたり。

「うぅ〜、残念だよ」

「まあくじだからな。仕方ないさ」

西野空が、はあぁとあからさまに溜め息を吐く。

それを見ながら俺は曖昧な返事を返した。



席が離れたのは良かったと思った。

最初だけ。



「おっはよぅ!」

と、声をかけられた。振り返ると西野空がいて、「お早う」とだけ返事をしておいた。

俺が自分の席に着くと、西野空も自分の席に着いた。

うん、俺はこんな静かな日常を望んでいたんだ。

後ろから西野空を見ると、隣の知らない奴と話していた。やけに楽しそうな顔で話しているのが目に入る。

少し胸がちくっとした。



昼休み。

いつもなら俺が独りで食べていると西野空がやって来て、ふたりで食べる。

だが、今日は違った。


「喜多くーん!」

ぱたぱたと西野空が走ってくる。

「…何だ」

「あのねぇ、このひと僕の新しい席の隣でね、仲良くなったから一緒にごはん食べていーい?」

「……」

それを聞いた瞬間言いようのない怒りが込み上げてきて、広げていた弁当を片付けて席をたった。

「え?…え!?」

「…俺は他の所で食べるから、この席はふたりで使ってくれ」

「え!?ちょっと!?」

あたふたする西野空を置いて俺は教室を出た。



屋上についた。

「はぁ〜……」

最悪だ。

別にあんな事言わなくても良かったんじゃないのか?

一番驚いたのは、自分がこんな小さな事で怒ってしまうなんて。西野空に八つ当たりしてしまうなんて。

西野空は悪くないし、そんな西野空だから俺は…

え?俺今なんて思った…?


「喜多くん!!!」

声がした方を振り返ると、西野空が息を切らせながら走って来ていた。

「はぁっ…もう、捜したんだよ?」

あはは、汗かいちゃったよ と笑いながらこっちに歩いてきている。

「…何で来た」

自分でも情けないぐらいにか細い声が出た。

「何でって!喜多くんがいきなり走って行っちゃうからでしょ!!」

まあ、それはそうだ。

独りにしてくれよ、と言おうとした。

「!?」

「悪い子にはお仕置きだ〜」

正面から勢いよく抱きつかれて、声が出なくなる。

手を首に回されて、耳元に西野空の吐息があたった。

「ねえ喜多くーん」

「…な、何だ」

「さっきの…もしかして、嫉妬?」

核心を突かれて、びくりと肩を揺らしてしまった。

いや、核心?…核心なんてそんな。違う。

心臓が暴れている。息が苦しい。

西野空から顔が見えない位置で良かった。今正面から見られていたら、何かいらない事を口走ってしまいそうだ。


「…な〜んてね?」

くすり、と笑って西野空が俺の首筋から離れた。

息を整えて、急いで表情を作り直す。

「かえろ?」

ちょいと服の袖を摘まれた。

「…っ、あぁ」

「うふふ〜」

俺の腕にくるりと抱きつくと、満足そうに笑って俺を引っ張っていく。


…流された、のか?

俺は西野空に聞こえないように、小さく溜め息をついた。





ーーーーー
西野空くんはきっと確信犯。
意外と喜多くんの独占欲が強かったりすると萌。

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