「サンジくーん」
キッチンのドアが開き、今日もかわいい***ちゃんが顔を覗かせた。
さっき渡したおやつ一緒に食べようって、呼びに来てくれたのかな?
でゅっふっふ、ほんの数分すら待ちきれなくなっちまうなんて、本当におれのことが好きだなぁ、***ちゃんは。
「***ちゃん!おれも今そっちに行こうと思ってたところだよ〜〜」
「あ!あのね、」
「ん?」
かと思えばぱたぱたと足音を立て近付いてきて。
エプロンを外し***ちゃんの方へ向かっていたおれの前に立った。
なんだ?甘えてぇのか?
「***ちゅわん、抱っこ?」
「ん?ふふ、違うよ〜」
すると幸せそうな笑みでおれを見つめていた***ちゃんの視線が、キッチンの中へと反らされた。
あ、用事はおれじゃなくてキッチンなのか。
なんだ。
「***ちゃん、なんか探し物」
「ん…、あ…、あったあった…」
「!!!?」
ぬあ!!なんだ!今の吐息混じりの色っぽい声!!!
***ちゃんはおれの耳許に囁き声だけを残し、颯爽とキッチンの中へと入って行った。
惑わされているおれのことなど全く気にも留めずに。
「あった蜂蜜〜!サンジくーん、蜂蜜貸して?」
「っ…」
「サンジくん?」
「***ちゃん!そんな色っぽい声で囁いておれを誘っているのかい!?」
「え!?囁いた?いつ!?」
「今!“あったあった”ってかわいい声で傍で囁いただろ!」
「ええ?あー、確かに言ったけど、」
「な!言っただろ!」
「ふふ、すれ違い様にでしょ?むしろあんなの一人言だよ」
あー無意識ってこえーこえー。
かわいい***ちゃんは一人言まで色っぽいっていうのか。
「いいや、囁いた!…しかも蜂蜜!?」
「あ、うん、貸して?」
「も、も、もしかして、***ちゃん…おれと蜂蜜プレイを所望して」
「!?あはは、してないしてない、今日のおやつのパフェにかけたいな〜と思っただけ」
言いながら***ちゃんは蜂蜜の入った小瓶を持ち、眩しい笑顔の横に並べて見せた。
やっぱりクソかわいい。
そんな行動もおれを煽ってるようにしか見えねぇって分かってねーんだな。
「***ちゅわ〜ん!照れなくてもいいんだぜ」
「くすくす、照れてないし、それに食べ物で遊んじゃだめ!でしょ?」
「遊ばねーよ、おれが全部堪能するんだから」
「もーサンジくんってほんとにばか!ふふ、ほら、パフェ溶けちゃうよ、早く一緒に食べよ!」
***ちゃんはおれを追い越し爽やかな笑顔で再びドアに手を掛けた。
しかし…***ちゃんの無意識にこんなにドキドキさせられて、このままっていうのは気に食わねーな。
…***ちゃんもおれみてぇにドキドキさせてやろう。
ちょっとした仕返しの意も込めて***ちゃんを後ろから優しく包み込んだ。
それから耳許に唇を近付けて、とびきりエロい声を作り低く囁いてやる。
この声は***ちゃんに対して格別な専売特許になるから。
「…じゃあ、***ちゃん…お楽しみは、あとでな」
「!」
***ちゃんは囁かれた方の耳を手で押さえながら、そのまま動かなくなった。
クク…ああもう、この娘、だめだ。
かわいい顔を覗き込むと頬を紅色に染め潤んだ瞳でおれを見つめた。
さっきまでの余裕はまるで感じられねぇな。
「も〜…サンジくんがそんなふう言うから、」
「クックッ、何?…してほしくなっちゃった?」
***ちゃんは少しためらったが無言でこくりと首を縦に振った。
はい、官能のスイッチ入りました。
君のそのスイッチの在りかは誰よりも知ってるよ。
「フ、クソかわいい」
「も〜、サンジくんのばかー」
「あとでな、***ちゃん、ほら、ほんとにパフェ溶けちまう、食お?」
「うん!サンジくん一緒に食べよ〜」
頭を撫でながら言ってやれば、嬉しそうに微笑んでくれる君はやっぱりかわいい。
囁きボイス、意図的ボイス。
振り回されるおれに、
振り回される君。
お楽しみは、おやつのあとで。