彼女と出逢ったのは入学式。すげェかわいい子がいるなあと思いながら好奇心で彼女を見ていた。隣にいたローっていう変態じみた友人にも教えてやると、「ふん」と鼻で笑われた。あいつは興味ねェらしい。彼女は偶然にも同じクラスで、名前は誰よりも先に覚えた。初めて喋ったのはその日の休み時間。話しかけたくて彼女の周りをうろちょろしていたら、彼女のほうからおれに声を掛けてくれた。驚いて、でももしかして彼女もおれのこと気になるのかななんてありえない期待をぶちかましながらマヌケ声で返事をしたら、「先生に呼ばれてるよ」だって。





「じゃあ次、保健委員。保健委員やりたい人〜。」


「はい。」


「…!あ、先生おれも…!」


「おれがやる。」


「え!?」





初めて彼女に近づこうと頑張ったのは、委員会決めのとき。クラス内で委員を決めることになって、彼女が手を挙げたのは保険委員。男女1人ずつしか枠がなかったその委員会に彼女が手を挙げたということは、もちろんその男枠にはおれが入るべきってもの。だけどローの野郎が嫌がらせとばかりにおれより早く手を挙げやがったから、その枠を手にするのはおれしかありえねェってのになぜかローのバカ野郎とじゃんけんをするはめになった。しかも負けた。3回勝負にも負けた。結局黒板に書かれた名前は彼女とバカヤローの名前で、バカヤローはおれが落ち込んでる姿を満足気な顔で見てやがった。すっげームカついたから、次の授業のときにバカヤローの後頭部に消しゴムをちぎって投げつけた。連続で、しかも豪速球で。そしたら先生が「ポートガス!」って怒鳴りながらチョークを投げつけてきた。そりゃあもうすげェ豪速球で。初日からクラスのみんなに笑われて、彼女もクスクス笑ってた。おれが怒られた原因の忌々しいバカヤローも、すげェ憎たらしい顔でにやにやと笑っていやがった。帰り道、バカヤローに「バーカ」って100回くらい言ったあと、「おれにお前の委員会を譲ってください」って頼んだら、「おれが委員会なんてクソ面倒なもんやるはずねェだろうが、てめェがやれ」だって。





「ああ!?じゃあてめェなんで手ェ挙げたんだよ!」


「嫌がらせに決まってんだろうが。」


「うわ!てめェ最低か!」


「ああ、そうだな。」


「てんめえええ…!」





初めて彼女と笑いあったのは、保健委員の集まりのとき。もう1人の保健委員はローだと思っていた彼女は、委員会の集まりでおれが彼女の隣に座ると不思議そうにおれを見つめて「ローくんの代理で来たの?」と尋ねてきた。





「いんや、おれが保健委員になったの。」


「え、ホント?ローくんは?」


「あいつこういう面倒なの嫌いだから、おれが変わりにやれってさ。だから今日からおれが保健委員。」


「そうなんだ、よろしくね。」


「おう、よろしく。」


「でも変だね、ローくん自分で立候補してたのにエースくんに任せるなんて。なにかあったのかな。」


「いや、なんもねーよ。あいつこういうわけわかんねーことよくやんの、気まぐれで。」


「へえ、」


「んで、おれが迷惑かけられる。」


「あはは、変なの。」


「ああ、変人なんだあいつは。」





バカヤローの話で盛り上がるのは不本意だったけど、彼女の笑顔が間近で見れただけでおれはものすごく嬉しかった。そのあとも色々な話をして、結構彼女も楽しんでくれたと思う。だから委員長みてェな偉そうな奴の話なんか全然聞いてなかったし、身体測定についての話し合いなんかまったく参加しなかった。おかげで次の週に行われた身体測定はおれ達のクラスだけグダグダで、彼女と揃ってクラスの担任に散々怒られたっけ。いや、9割方おれだけが怒られてたんだけど(女子はスムーズに出来たらしいから)、「全体責任だ!」とかなんとか言いやがるから彼女も怒られるはめになったんだ。全体責任っつーならクラスみんな怒れよ、なんて思ったことを口にしたら、「お前のせいだろうが!」って言われて怒りをさらに増しちまった。結局長いこと怒られて、終わった頃にはもうクタクタ。教室に戻る渡り廊下で、おれは彼女に散々謝った。「ごめんな、あのおっさん話長くて」って。そしたら、彼女はクスクスと笑って「大丈夫だよ」って言ってくれた。そして今度はにっこり笑って、「エースくんっておもしろいね」だって。





「ローくん、先生が呼んでたよ。」


「…あ?なんで。」


「それはわかんないけど、今すぐ来いだって。」


「…へえ。」


「へえ、じゃねーよバカヤロー。さっさと行って指導されてこい。」


「あ、エースくん。」


「…なんだポートガス屋、急に現れて。勝手に会話に入ってくんじゃねェよ、そんなに邪魔してェのか?」


「は?ち、ちげーよバカ!さっさと指導されてこい!」


「おれに命令するな、消されてェのか。…ああ、そこの女。その先公に伝えろ、おれと話してェならてめェが来いと。」


「うん、わかった。」


「わかったってオイ!」





彼女は誰にでも笑顔で接するタイプで、地味で根暗なメガネくん(地味過ぎて名前忘れちった。すまん、メガネくん)から性悪で不良なトラファルガーくん(お前の名前なんてゆーんだっけ。バカヤローだっけ、エローだっけ。あ、エロファルガー・バカヤローか)まで誰とでも分け隔てなく同じように接していた。おれとしてはメガネくんやバカヤローにまで笑顔を向ける必要はねェと思うんだが、それが彼女のいいところでもあるからやめろとは言えない。だけど、これだけは言いたい。バカヤローの言うことなんざ聞かなくていいんだよ!





「エースくん!」


「お、」





初めて彼女と並んで歩いたのは、何気ないいつもの帰り道。たまたま寄ったコンビニで、おにぎりを大量に買っていたおれにお菓子を大量に買っていた彼女が声をかけてくれた。学校外で会うのは初めてだったから、なんだかこっ恥ずかしかった。(しかもおにぎり大量に持ってたしな、超かっこわりーじゃんそれ)先に会計を済ませたのはおれだったんだけど、彼女を残してコンビニを去るほど薄情な奴じゃねェし、雰囲気的に彼女を待ったほうがいいと思ったから、おれはコンビニの外で彼女を待つことにした。そしたら彼女はおれが待っていることに驚いたみたいで、外で待ってるおれを見つけた瞬間小走りで駆け寄ってきてくれた。そして少し笑ってさ、「一緒に帰ろ」だって。





「とか言いやがったんだよあの野郎!そりゃないぜ、なあ?」


「あはは、なにそれひどーい。」





彼女と一緒に歩いた道のりは思った以上に楽しくて、けど楽しすぎたせいもあってか、思った以上に短かった。遠慮する彼女を強引に押しくるめて彼女を家まで見送ったけど、それでも短すぎる道のりにどうしようもなくがっかりしたっけ。もう着いたのかって、もう彼女とお別れしなくちゃなんねェのかって。内心もっと話してたくて、ずっとずっと彼女の笑顔を見ていたかったおれに彼女が言った言葉は「じゃあ、また明日」。ああ、うん、と精一杯作った笑顔で返したあと、力なく彼女に手を振ったら、彼女がまた大きく笑って「また一緒に帰ろうね」だって。もう一気にテンションがアップして、「ああ!絶対な!」なんて大きな声で言っちまったから、彼女が笑ったのはもちろんのこと隣のおばさんにも「あらあら」って笑われちまった。でもそんなことも気にならないくらい嬉しかったんだ、だってまた一緒に帰ろうって彼女から言ってくれたんだから。おれに笑顔で手を振って家に入っていった彼女を見送ったおれは、ふうっと一息吐いたあと意味もなく家まで猛ダッシュした。だって抑えきれなかったからさ、嬉しいってゆー気持ちが。ダッシュでもしねェ限り爆発しそうだったから、おれは叫びてェ気持ちを走力に変えてすげェダッシュで帰ったんだ。あのときのパワーを出せばオリンピックにも行けたんじゃねェかな、なんて、おれちょっと浮かれ過ぎじゃね。





「タルトのケーキがいっぱい食べれるお店がオープンしたんだって。」


「へえ、タルトか。食べたことねェやおれ、うまいの?」


「おいしいよ。あ、今度一緒に行く?」


「お、おう!行く行く!」





あの日以来、おれと彼女が一緒に帰る回数が段々と増えていった。喋るリズムも自然になってきて、隣に彼女がいるのも当たり前になってきた。あの頃からだと思うんだ、おれ達の仲が急速に深まってきたのは。もちろんおれは最初から彼女に対して好意的だったんだけど、あのとき彼女もきっと…おれの自惚れじゃねェことを祈るけど、あのときの彼女もきっとおれに少なからず好意を抱いていたと思う。だって、好きでもねェ奴と一緒に帰ったりなんかしねェだろ?そんなことをバカヤローに言ったら、滅多に見れない爆笑顔をおれに披露してくれた。「なに純粋少年みてェな恋愛してんだ気持ち悪ィ」うっせェ、こっちはてめェと違って永遠の純粋少年なんだよ。「さっさと押し倒しちまえばいいだろ、女なんて股広げてぶちこんでやりゃあ一発で堕ちる」先生!ここに女の敵がいます!エロファルガー・エローって奴です!





「…あの、さ。」


「ん?なあに?」


「…あー、あの…あ、公園寄らね?」


「…?うん、いいよ。」





たぶん人生で1番心臓がぶっ壊れそうになったのは、彼女に告白すると決めたある日の帰り道。急に思い立ったせいで全くの無計画だったし、2人で公園のベンチに座った時は緊張で頭が爆発しそうだった。だけどもう彼女との関係をもっと深めたいっていう気持ちが抑えられなかったから、今告らねェでいつ告るんだよおれ!って自分をめちゃくちゃ奮い立たせたんだ。緊張してるのが彼女にも伝わったんじゃねェかな、2人とも無言になるなんて滅多になかったのに、ベンチに座ってからのおれ達は驚くほどに静かだった。だからもう言っちまったんだ、「好きだ」って。





「……えっ…」


「付き合って、ほしい…っス。」





なにを話してるわけでもなく、君のあれがこうでこうだから好きとか言ったわけでもなく、2人して無言で座っている中に突然放り投げた「好きだ」って言葉。彼女はおれが思っていた以上に驚いていて、おれの顔を見上げると真っ赤な顔で目を見開いた。なんかすげェ恥ずかしかったみたいで、その顔を両手で覆った彼女がめちゃくちゃ可愛かったのを今でも鮮明に覚えている。だけど彼女以上におれのほうが恥ずかしくって、でも彼女みてェに可愛く顔を隠すわけにもいかねェし、告って逃げるなんてマネは死んでもしたくなかったから、焦る気持ちを抑えながら静かに彼女の返事を待ったんだ。でもそろそろ心臓のほうが限界を迎えてたし、彼女がどうしていいのかわからないみてェだったから、「返事は今じゃなくてもいい」って良く聞くセリフも言ってみた。ホントは今すぐ返事が聞きたかったし、悪い返事だったら一生聞きたくなかった。だけど告白した以上は返事を待たなきゃならねェから、今さらどう足掻いたって仕方ねェ。男なら黙ってふんどし引き締めろ。そう自分に言い聞かせて、活発な心臓を落ち着かせる。そんなとき彼女がぽつりと言ったんだ、「友達から、なら」って。





「……お、おう!そ、そうか!」





正直どういうことかわかんなくて、友達からってことは今まで友達ですらなかったのかとか、おれの彼女にはなれねェってことなのかとか色々悪いこと考えちまったし、OKなのかダメなのか、付き合えたのか振られたのかよくわかんなくてすげェ不安だったんだけど、「それってどういう意味?」とか聞くのはカッコ悪い気がして、おれはよくわからないままでその日を悶々と終わらせた。次の日学校に行ったら彼女がおれの靴箱の前で待っていて、おはようって言われたからおはようっつったら、「一緒に行こ?」だって。正直ものすごく驚いて、だけどもうまともに話してくんねェのかもしんねェとか考えてたからものすごく嬉しかったおれは、「お、おう」なんて戸惑いを爆発させた返事をついかましちまった。バカ野郎、おれが変に戸惑ってどうすんだよ。そう思って彼女にバカげた話でもしようと持ちかけると、彼女がおれの服を少しだけ掴んでぐいっと引っ張ったんだ。





「…待っ、て。」


「…え、」


「話が、ある、の。」





昨日は考えすぎて寝れなかったからおれはすげェ寝不足で、学校に着いたときにはすでに遅刻ギリギリだった。だからこうして彼女に話しかけられてる間にもう授業開始のチャイムが鳴っていて、周りに居た遅刻ぎりぎりの生徒達も走って教室に向かっていたんんだ。「あ、ち、遅刻…」なんて言って思いっきり戸惑っているおれに、「あ…ごめん、ね」と申し訳なさそうに彼女がおれの服を手放すもんだから、おれはなんだかすごくそれが嫌で、その手を咄嗟に掴んじまった。もちろん考えなんてなくて、その前に彼女に触れたことが初めてだったから、急にまた昨日のように緊張しちまったおれは裏返りそうになる声を抑えながら「話があるんだろ」ってカッコつけながら言ったんだ。偉そうだったかなとか、遅刻なんて気にしてねェから謝るなよとか言えよ!とか色々思ったんだけど、おれの口から出てくる言葉の全部がなんだか不機嫌そうで、彼女の眉が下がったときにはもう自分をぶん殴りたかった。せめて笑っていたかったけどそれも出来なくて、チャイムが鳴り終わった空間には彼女のごめんねという言葉だけが小さく響いていた。





「昨日いっぱい考えたんだけどね、」





目線を合わせようとしないおれに、精一杯の笑顔で話しかける彼女はなんだかものすごく泣きそうで、今にも溢れ出てくる涙に驚いたおれは咄嗟に彼女の小さな体を抱きしめてしまったんだ。もうそんときには頭ん中真っ白になっていて、驚く彼女の気持ちすらも考えられなくなっていた。今となればいきなり抱きしめられて嫌だったかもしれねェとか、なんでいきなり順序ぶっ飛ばして抱きしめちまってんだとか色々考えることが出来るけど、あのときは仕方なかったんだ。彼女を泣かせたくなかったんだ。とにかく彼女を抱きしめて、だけど無言のままでいるおれに戸惑っちまった彼女はついに泣きだしてしまって、それを見ておれはまた自分をぶん殴りたくなった。だって知らなかったんだ、彼女がどんな思いを持っておれに話しかけてくれたのかって。知らなかったからさ、なんで泣いているのかって。震える彼女の背中をぎゅっと抱きしめて、それでも無言でいるおれに聞こえたのは、昨日はおれのことだけで頭がいっぱいだったとか、今おれと喋ってるだけで心臓が爆発しそうだとか、おれにとっては嬉しくて飛びあがってしまいそうなことだった。そんなことを顔を真っ赤にさせて泣きながらおれに言うから、おれのほうが恥ずかしくなって「バカヤロウ」とか言いながらものすごく顔を真っ赤にした。あのさ、それってさ、つまり…って、今まで無言で彼女を困らせてたくせにいきなり元気になったおれは、彼女を思いっきり抱きしめると「それってさ、どういうこと?」なんて、図に乗ったセリフを吐いちまった。そしたら彼女がおれの制服をぎゅっと握ってさ、「私、エースくんのこと好きみたい」だって。






urupurelover

両 想 い だ ね







嬉しくて、すっげェ嬉しくて、「よっしゃあ!」って叫んだら彼女にクスクス笑われた。涙を拭う彼女の頭をグリグリってして、ホントは飛び跳ねてェくらい嬉しかったんだけどかっこ悪ィからそれはやめて小さくガッツポーズをした。そのあと少し2人で話をして、決まり事なんかも決めてみたりした結果、恋人同士になったんだから名前で呼ぼうってことになった。今までおれは彼女のことを名字で呼んでたし、彼女はおれのこと「エースくん」って呼んでたけど、恋人になった今日からは、彼女は「***」でおれは「エース」。初めて彼女の名を呼んだときは、なんかわけわかんねーくらい恥ずかしかった。そして2人揃って遅刻したその日の午後。とにかくおれ達が付き合ったってことを早く誰かに自慢してやりたくて、だけどクラスの奴らに言うのは恥ずかしいって彼女が言うから、彼女と付き合うことになったと保健室でサボっていたローに自慢しに行ったら、すげェ眉間にシワを寄せながら低すぎる声で、「くだらねェことで起こすんじゃねェ」だって。やっぱりこいつはバカヤローだ。





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