『あー・・・暇。』
視界の約九割は白色で占められ、薬品の匂いが鼻を掠める。そう、ここは保健室。別に体調が悪い訳ではない。ただ単にサボりに来ているだけ、もう一つのサボりポイントである屋上は競争率高いからね。
『ていうか何で先生居ないのよ、話し相手が居ないんじゃ暇じゃない。』
そう呟いたからって何になるってもんじゃないけど本当に暇なんだもん。そんなことを思っているとカラカラと保健室の扉の開く音がした。
「あーお腹痛い、お腹痛い。こりゃ俺は何万人に一人の奇病かもしれやせん・・・ということで休ませてもらいやす。」
・・・・・うん、これ絶対仮病だよね?これが本当だったら保健室来ずにすぐピーポーさん呼んで病院だよね!?・・・ちょっと待てよ。仮病ってことは病気じゃない、病気じゃないのに保健室に来るってことは私と同じサボり人。あ、暇潰しの相手が出来たじゃない!
カーテンを閉めてるから見えないけど恐らく隣のベッドに入っただろう仮病くんに暇潰しの相手になってもらうために私はカーテンを開けて声をかける。
『ねぇ貴方、暇潰しの相手になってよ。』
「あァ?アンタもサボりかィ。アンタ、俺が誰だか分かってんのかィ?」
『・・・・誰ですか?テレビとか出てたっけ?』
頭をフル回転させて過去を振り返ってみるがテレビにこんな人が出てるのは見たことないはず。仮病くんは一瞬驚いたような顔をしたがまたすぐ貼り付いたような笑みを見せた。
「そりゃあもう、いろんな番組にひっぱりだこでさァ。」
『嘘つけ、君はただの仮病くんだ。』
そう言うと仮病くんはつまらなそうな顔をしてから沖田総悟でさァと言った。仮病くんは沖田総悟というらしい。
『沖田、総悟・・・・何となく聞いたことあるかも』
「当たり前でさァ、この学校で俺のことを知らないのはきっとアンタだけでィ。」
おもしれェや、こいつ本気で悩んでやがる。それにしてもだいたいの女は沖田くん、沖田くんって寄ってくるっていうのに俺のことを知らないたァ変わった奴でィ。そんなことを思いながら未だに悩み続けているアイツを眺める。
「アンタ、名前は?」
『・・***。』
***がそう告げた直後、三時間目の終わりを告げる無駄に大きな音のチャイムが鳴り渡った。
『次は銀ちゃんの授業だから出よっかな。』
ベッドに座っていた***はそこからすとんと降りるとバイバイ沖田くん。と言って足早に扉に向かった。
「なァ、***。***は毎日ここにサボりに来てるんですかィ?」
『そうだよ、今の時期の屋上は寒いしね。』
「そうですかィ、じゃあまた会いやしょう。」
***は俺の言葉を不思議に思ったのか一瞬きょとんとした顔をしてからじゃあ、またね沖田くん。という言葉と向日葵のような笑顔を残して扉を閉めた。
「あ、クラス聞くの忘れていやした・・・。まぁ、いいか。」
保健室の恋人
(だって明日、また)
(アンタに会うために)
(サボりに来るんでねェ)