失敗した、第一***はこの船に乗った時から酒を飲まなかった。
ただ、今日は***の誕生日ってことで主役の奴が飲まないでどうする!とかいうノリで酒を勧めた。てか無理矢理飲めって言った。
酒に弱いかも知れないって事を、想定してれば今の状況にはならなかった筈……。
「し、失敗だ……。いや違う。コイツは決して酒癖が悪いんじゃない、いつも以上に毒舌だかきっと愛情の裏返し……って、もはや自分は何を言ってんだ」
「煩い黙れ喋るな酸素が勿体ない」
「ひどっ!?根本的に否定されてね!!?」
「だから酸素が勿体ない」
「………」
背中に乗っている***は本当に酔ってるのか、って位饒舌だが毒の吐き具合が普段とは比べものにらない。
いくら何でも、根っから存在を否定するような奴じゃなかったぞ、うん。
「エースさん、遅い」
「煩せェ。***が重いんだ。だからスピード出ねぇの」
「いや、最近私3キロ痩せました。貴方方の洗濯物が異常な量だし船もすぐ酒瓶が転がるし。第一私が船の掃除全般を受けもってるんですよ少しは負担を減らそうとか考えてもらっても良いじゃないですか、てかエースさんもう喋らないで酸素の無駄」
「まだ言うかっ!!」
後ろから精神的なダメージを受けつつ、俺は***の部屋に向かった。
もう部屋は直ぐそこだから少し足を速めると肩に頭を預けられる。
そのまま背中で寝るのかと思いきやあろうことか俺の耳を甘噛みしやがった…。
「んなっ!?」
「ちょ、揺らさないで下さい。しゃきっとせい、しゃきっと」
「おおお前がっ…!!」
「あ、もう部屋ですよ」
不意打ちなうえに甘噛みなんてされれば吃りもするし、自分が好意を寄せてる女なら尚更驚くというか…。
と言うか耳を噛むって…何か、エロいよなぁ……。
ぼんやりとした頭でそんな事を考えるが一瞬でその思考を吹っ飛ばした。
夜中だからだ、深夜に女をおぶってるのもあるからちょっと卑猥な事を考えてしまうんだ。意思を保て、自分。
ひとまず、***を部屋まで運んでベッドにおろす。俺はさっさと立ち去ろうとしたらいきなり手首を掴まれ引っ張られる。
「のわっ!!?」
「まぁまぁ。そんな急がなくとも。ちょっとおねーさんとイイコトしましょうよ」
「あれ?お前そんなキャラだっけ?」
***に引っ張られた俺は結局***のベッドに座るような形になり、手首もがっちり掴まれたままだった。
既に、というか今更出来上がってしまった***は、寝転んだまま俺を見上げる。
酔っている所為か顔が赤くなってはいるものの、やはりポーカーフェイスで、しかしどこか艶めいた声色で話す。
「深夜で男女が一つのベッドにいるんだから、襲ったっていーんじゃないですか?」
「黙れ酔っ払い」
「ほーら、***サンは今、無法地帯なんで好きに出来ますよー?」
Tシャツをギリギリの所まで捲りながら棒読みで俺に振る。
良いのか、今ここでコイツを襲って良いのか!?確かに深夜だったり顔が赤らんでたり色々な条件が重なって今の***はエロく見えるが……誘いに乗って大丈夫か?
「ちなみに言うなら、エースさんだけにしかこーゆー事言いませんからねー」
「………」
俺が悩んでるにも関わらず、***は座ってる俺の腰に抱き着きながら甘ったるい声で言ってきた。
いつもなら絶対出さないようなその声で誘い文句を言われて、どくん、と心臓が脈打ったのがわかった。
それでも中々手を出せないのは、俺の中に不安と恐怖が渦巻いているからだろう。
きっと、今みたいな曖昧な状況で本能に従えばこの先の***との関係が崩れるんじゃないか、っていう『不安』と『恐怖』に止められてる。
「……人が誘ってやってんのに手ェ出さねぇのかよ。いつまでへたれてるつもりだアホンダラァ」
「お前ホント酔ってると信じらんねェくらい饒舌だよな。めちゃくちゃ呂律まわってんじゃん」
「おうよ」
俺は軽く***の手を振り払い、ベッドから腰をあげる。そしてじゃあな、とだけ言って部屋を出ようとした。そこで***に声をかけられる。
「エースさん、ぶっちゃけますけど、」
「んあー?」
「私、酔ってないし今の本気ですよ」
「っ…!!?」
後ろから言われた台詞に、思わず顔が赤くなる。
ゆっくりと***の方を向けば、暗がりでも彼女がニッ、と笑ったのが見えた。
「さあ!どーんと来い!!」
「***、お前は…」
しゃーない、そんなに言うなら相手してやる。
俺は素早く踵を返してベッドまで歩き***を抱きしめた。
「後で後悔すんなよ」
「はーい」
どうやら俺より彼女の方がよっぽど勇気があったみたいだ。
へたれウルフの午前2時
(……やっぱ今は止めねェ?)
(今更へたれんで下さい)