「鬼道さん、飲まないんですか」
あたしの問いかけに鬼道さんはバツの悪そうな顔をした。もしかしてコーヒーが嫌いだったのだろうか、それを尋ねてみると否定の言葉を返されたので次に猫舌なのかと聞いたら軽く叩かれた。痛い。
「お砂糖、いります?」
そう尋ねても何も返してくれないし、やっぱり猫舌じゃないのか。また声に出して頭を叩かれても痛いし嫌なので言わないけれど。あ、やっと飲んだ。なんだ、ブラック派なんだ。
「名前」
「はい?」
「苦い」
「砂糖入れてないの鬼道さんじゃないですか」
と、思ったらどうも違うらしい。鬼道さんは顔を歪ませて苦さを訴えてくるけれど、そんなの砂糖を入れない鬼道さんが悪い。あたしは砂糖を有無を聞いたのに何も返さなかったのは鬼道さんだ。それなのに。
「……まさか、家で出てきたものしか飲んだことないとか言わないでくださいね」
「…、……」
畜生、このお坊っちゃまめ。やっぱり砂糖とかもうあらかじめ入れられたコーヒーしか飲んだことないのか。そのコーヒーがそのままだと苦いことを知った鬼道さんが、自分の手で砂糖を不器用に加える姿に泣きそうになった。