好きなんです、貴方のことが





―手を伸ばしても、届かないと思った。

この城に来てから、私はもう何度もマーリン様に想いを告げている。

その度に、マーリン様が仰る言葉が、私の胸に痛い位刻み込まれる。

「…マーリン様。ここにいらしたんですね。」

「ああ…ボールスか。君はいつも私を追いかけているけど、いい加減に諦めたら?何度も言ってる事だけど、魔法使いと人間は結ばれない運命なんだよ。」

「…それでもいいから、傍に居たいんです。いけませんか…?」

マーリン様に近寄り、その広い胸にそっと手を当てる。

「それは君の我儘だろう?たとえ君と結ばれたとしても、君はいつか死ぬ。君が死んだら、私は一人になる。だから、私は誰とも愛し合ったりしないと決めているんだよ。」

確かに、マーリン様の言っている事は正しい。けど、どうしても諦められないんだ。

私が何も言い返せないでいると、マーリン様が大きな溜息を吐いて私の頭をポンポンと撫でた。

「…っ…マーリン様…お願いがあるんです。私を抱きしめて貰えないでしょうか?そしたら…もう、貴方の事は忘れます。」

「…ボールス……はあ…好きにならないって決めていたんだけどねえ…負けたよ、完敗だ。私はどうやら、君に恋をしているみたいだ。」

そっと顔を上げた刹那、マーリン様の腕が腰に廻され、そのままグイッと抱き寄せられ、私は心臓が止まるかと思うくらいドキドキしてしまった。

「…マーリン様…大好きです…。あの…もっとくっついてもいいですか?」

「…ああ、構わないよ。でも…私は人間ではないから、温もりは感じられないかもしれないけどね。それでもいいなら…好きなだけ密着してくれていいんだよ。」

初めて触れるマーリン様の手は、確かに冷たくて温もりを感じる事は出来なかった。

けれど、マーリン様は確かに私の目の前に居る。ちゃんと生きている。

「…これからは、私がマーリン様を温めてあげますよ。本当に…好きなんです、貴方の事が。大好きなんです…。」

何度も伝え続けてきた言葉なのに、なぜか今はとても気恥ずかしく感じた。

頬を少し赤らめながら困ったように微笑むマーリン様の手を包み込むと、ためらいがちに握り返してくれるマーリン様が愛おしい。

「…君に魔法をかけてしまいたいよ。永遠に私以外その瞳に映らなくさせたい…そうすればもっと長く一緒に居られるのに…。」

「かけてくださいよ…そんな魔法があるのなら…。」

マーリン様は切なげに眉を下げ、私の唇をなぞってくる。

唇をなぞる指が少しだけ震えているのに気付くと、私は胸の奥がきゅうと締め付けられるのを感じ瞳に涙を滲ませマーリン様を見上げた。

「…ボールス…そんな瞳をしないで…何も不安などないだろう?ほら、笑って。いつものように…私の大好きな、優しい笑顔を見せて。」

「……好きなのは、私の笑顔だけ、ですか…?」

急に不安になって、つい困らせるような事を言ってしまった。

「そんな訳ないだろう?どんな表情の君も、魅力的だと思うよ。少なくとも、私にとってはね。」

マーリン様の優しい言葉が、私の脳を痺れさせていく。

「…マーリン様に出逢えて…本当に良かった…。」

「…ああ。私も同じ気持ちだよ。今日はもう少し抱き合っていよう。あと少しだけ、このままで…。」

小さく頷きマーリン様の胸に頬を寄せると、包み込むように抱き締めてくるマーリン様の腕が愛おしい。

暖かな日差しの中、私達は互いの存在を確かめ合うようにいつまでも抱き合っていた。



end.


2013.11.16


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