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「師匠の仇って……どーいうことでィ?」

「そう言うことだよ。」



いつのまにか涙は引っ込んでいた。

神威はすっくと立って俺に背を向ける。

「師匠はさ……さっきも言ったように時雨の創設者でここを総統している方によって処刑された。その方は俺は見たことないんだけど俺達赤雲者の中では」

一旦言葉を切る神威。

「‘死神’って呼ばれてる。」


‘死神’

その言葉が妙に胸に響いた。

「実はさ、俺が今回総悟をここへ連れてこさせたのは、これなんだよ。」

オレンジが振り返った。

「俺と一緒にここを潰さない?」

「つ……ぶす…?」

「うん。師匠を殺した上の奴らに死をもって復讐してやるんだ。そのために俺はこの6年、ここに留まっていたんだよ。」

「……でも…そんな人の命を奪うなんて…………。」

「うん。俺もそう思う。だからこの6年誰も殺しちゃあいない。それは師匠の教えに背くことになるからね。でもさ、師匠はもういないから頭を下げて謝る必要はないだろ?ここには太陽なんてないしさ。」

「………。」

「ねぇ、総悟。」

無言の俺の顔の目の前に手が差し出された。


その光景が、遠い昔の記憶とかさなる。

「師匠の仇を、一緒に。」

遠い昔、俺は手を握り返した。




でも今は。

「ごめん。」

神威の手がぴくりと動いた。

俺は神威の目を見てはっきり言った。

「ごめん神威。俺はこの手を握れねぇ。」

「……どうして?」

神威は開けた目をすっと細めて眉を寄せた。

「分からねぇのかィ?師匠は俺達をそんな人殺しにするために俺達を育てたんじゃねぇ。

確かにここは暗殺者を育てるための施設だ。

身寄りもない孤独なこども達に小さい頃から人を殺す術を叩きこむ、恐ろしい施設だ。


でもよぉ、神威。よく考えてみなせィ。

俺達は一体師匠に何を教えてもらった?


己を守るため、人を守るための術ばかりだったじゃねぇか。

傷ついた人のための応急手当のやり方も教えてもらった。


爆弾解除、拘束具の外し方……。


全部暗殺なんかにこれっぽっちも関係ねェ、そういうもの。


それを師匠は教えてくれた。

人を思いやることも、

仲間を大切にすることも。


それがあったから今の俺がいる。
それがあるからこれからも俺は生きていける。


…師匠はずっと後悔していたんだと思う。

この世界に、俺達を巻き込んでしまったことを。

だから、あの脱出を計画し、実行した。

俺が見た最期の師匠は…笑ってたんでィ。

心の底からの笑顔だった。

師匠が俺に託したのは、師匠がいつも付けてたミニカバンとかばんの中に入ってた機能がたくさんついたアイマスクと物品リストだった。

その物品は不法で取引された世界の有名な物ばかりだった。

いくつかが線で引かれて消されてたけどそれでも何個か残ってた。


下のほうに走り書きでこう書いてたんでィ。


『替わりを。』


それには新聞もついていた。
その記事は切り抜いたもので見出しには『怪盗蜃気楼(ミラージュ)現る!』って載っていた。


俺には分かったよ。師匠が俺に何を託したのか。

それで俺は怪盗ナイト(夜)になった。

と言っても俺はもう全部盗んじまったからナイトはもうやめるんだけどな。



師匠は、ほっとけなかったんだ。

大切なものを無理矢理奪われた人達を。



なぁ、神威。

それでもお前は師匠のために人を殺すって言うのか?

師匠を奪われた憎しみを狂気にして、その手を真っ赤に染めるって言うのか?」

言葉を切り、ぐっと奥歯を噛み締めた。

「俺は……お前の手が汚れちまうとこなんざっ…!見たくねぇんでィ!」





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