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俺の声が小さかったらしく、神威が聞き返してくる。
奥歯を噛み締め、ギッとその黒い奴を睨んだ。
「あの日なんで刑事さん達を襲ったんでさァ!あのときあんたが使ったのは氷でできたクナイだった!」
叫びながらあの情景が脳裏にくっきりと浮かんできた。
氷は零度以上のところにあると水になる。
つまり。
「証拠をっ…!証拠を消すためにあえて氷を使ったんじゃねぇのか!相手が警察だから!」
「……あのとき、とは……いつのことです…か?」
感情の篭っていない、極めて機械的な受け応え。
「とぼけんな!俺が『マヨリョーシカ』を盗みに行ったとき、俺の背後から刑事さん達を襲撃してきたじゃねぇか!」
「おぃ、ちょっと待て!」
いきなりこれまでやり取りを聞いていた刑事さんが話に入ってきた。
「あれはお前を狙っていたんじゃ!?」
「違いやす!あれは確実に貴方方奇捜班を狙っ「どうして総悟が知ってるの?」
ピタッ。
神威の問いに俺の声が止められる。
見れば、開いている目。
「どうして、氷を使った、ていうこと知ってるの?」
その顔は心底信じられないという感情に満ちていた。
その表情に何故だか何も言葉が出てこなく、え?としか発せない。
俺の代わりに刑事さんが答えた。
「当たり前だろ!てめぇらがナイトに傷を負わせたんじゃねぇか!」
「…………傷?」
ポツリと聞き返し、チラリと黒い奴を見る神威。
そして俺の前に歩いてきてしゃがみ込み、視線を俺と同じ高さに合わせた。
依然として、目は開かれたままだ。
「総悟………怪我したってホント?」
強い目。
「……ホントですぜィ。」
嘘をつく必要はない……否、嘘をつけないと判断し、素直に答えた。
明らかにさっきまでとは違う雰囲気。
「……どこを怪我した?」
強い口調。
少々吃りながら言葉を繋ぐ。
「え?…ぇと……ひ、左腕。」
俺の言葉を聞くや否や、左腕を掴まれた。
勢いがあったが、ふわりとした優しい手つき。
「?…かむ「見てもいい?」
至近距離で見つめられた。
「…構いやせんけど……。」
上着の前を開けられ、左肩だけ服が脱がされる。
俺が怪我したのは左腕の二の腕あたり。
今は包帯を巻いているが、もうほとんど傷は塞がっている。
顔を少し歪めた苦い顔でそれを見つめる神威。
やがて俺にしか聞こえないような声で言った。
「ごめん。」
―…え?
それだけ言うとすっと離れていった。
―…なんだったんでィ?
「ねぇ、そこの。」
神威が未だ扉の向こうに立っている黒い奴を呼ぶ。
「これを隣の部屋に閉じ込めといて。」
指を差されたのは刑事さん。(『これ』扱いをされ渋い顔をしていたが、反論はしない。敵を無駄に挑発しないようにしているところはさすが警察。)
黒い奴が刑事さんを立たせ、部屋の外に連れていこうとする。
「あ、それと。」
二つの背中に神威が身体ごと向ける。
足を止める二人。
「白雲子の中の氷使うように命令した奴……あいつを上に献上する。」
―…献上、って何だ?
黒い奴は少し間を取り「分かりました」とだけ言って刑事さんと一緒に去っていった。
ガチャン。
神威が振り返った。
「さぁて……何から話そうか?」
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