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ドアの先には、肩まであるクリーム色のボサボサ髪に、無精髭をたくわえた40歳前後の男が立っていた。
身長は師匠よりかは小さいが中々高いほうだと思う。服の左胸には赤黒い雫に赤い雲がかかったマーク。

師匠と同じマークだ。
俺が今着ている服の左胸のマークは赤い雲ではなく、白い雲が雫にかかっている。


『やぁ、何しに来たの?』

師匠が話しかける。

『いや、上から赤雲者(せきうんしゃ)への呼び出しだ。』

男が答えた。

―…セキウンシャ?
それは、聞いたことのない単語。



多分今この会話が聞こえるのは俺と、後ろにいるバカ力の三つ編みだけだろう。
他の子達はドアから大分離れたところでそれぞれストレッチしているから。

俺らはドアから1番近いところにいるから、二人の会話は、はっきり聞こえる。
顔の表情も丸分かりのポジションだ。


『また呼び出し?あの部屋の空気嫌いなんだよな〜。』

あからさまに嫌そうな顔をする師匠。

『当たり前だろ。暗殺計画を立てるときにふわふわな空気でどーすんだよすっとこどっこい。』

―…アンサツ?

アンサツって、何だ?



男が突っ込むと師匠は、浮かない顔をした。

『……ところでお前さんとこの白雲子(はくうんし)、まだ10人いるのか?』

部屋をぐるりと見渡しながら師匠に問いかける。

一瞬その男と目が合い、慌てて逸らした。

『私のところの白(しろ)ちゃん達は皆優秀でね。生憎だけど今のところ、上に回さないといけないような白ちゃんは誰一人としていないのさ。』

人をおちょくるような態度の師匠。

『ホントかよオイ。他の班のとこ、昨日だけで3人バラしたんだぜ?使いものにならねぇ白雲子。』

『………。』

師匠は俯き、黙りこんだ。

『………まさかお前さん、白雲子に情がわいちまったんじゃねぇだろな。もし、わいてんなら今すぐそんな感情、もみ消せ。結局使いものにならなかったらバラして中身売っちまうんだからな。例え強くなったとしても、俺達と同じ運命しか待っちゃいねぇ。』

『全く、阿伏兎は心配性だな〜。大丈夫だって。』

顔を上げ、やれやれと、両手を肩まであげて首を振っていたのはいつもの師匠。俺は忠告したからな、と言い残し、男は去っていった。


俺は混乱していた。
ハクウンシ?
バラす?
俺達と同じ運命?

男が何を言っていたのか全く分からない。

ガチャンとドアをしめ、ドアの前で師匠が自分の肩を抱くようにしてうずくまった。

『………また、3人もっ…!……っ!』



声は弱く、小さいのに、はっきり聞こえた。

肩が微かに、震えている。


『……分かってる…。分かってるよ阿伏兎、そんな事ぐらい……。でもっ…!でもっ………!』



師匠は
辛そうで
悲しそうで
苦しそうな、表情(かお)だった。





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