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ご飯や着替えを一通り済ませた後、「門限まであと1分ある!」と叫ぶトシを無理やり帰らせてようやく一息ついた。

「大体これくらいでいいですかねぃ…。」

2階では冷えピタ貼ったギンが大人しく寝ている。
ほんとにあの二人の仲はいいんだか悪いんだか。食事中にケンカするのは本当にやめてほしい。(言い合ってることがもうほとんど「うるせ甘党!」「黙れマヨが!」で集約されてしまう。まぁ今日はもちろん大人しめだったけど。)

なんか水でも飲もう…とキッチンに足を向ける。
時間は23時。さっきまでの騒々しい空間から一転、暗くなったリビングはシンとしていた。

勝手知ったる棚からコップを拝借し、蛇口をひねる。
コップに水が溜まる音がやたら大きい。

「…………。」


―…自分ん家みたいだな。

誰もいない、自分しかいない家。

両親は海外を駆け回る職業のため、滅多に家に帰ってこない。遠くに嫁いだ姉ちゃんは数か月に一回は様子を見に来てくれるけど、あの一軒家に自分ひとりはやっぱりちょっと寂しい。

それでも今の生活が充実しているのは、二人の幼馴染の存在が大きかった。
三人で朝学校行って、授業受けて、音楽して、だらだら帰って…。

そして今日のようにたまに夕飯を三人で食べたり。

相変わらず二人は喧嘩ばっかりしてるけど、賑やかな食卓は俺にとって密かに大好きな時間だ。

水を止め、二口ほど口に含む。

―…ほんと、二人には仲良くなってもらいたい。

いや、でも散々「何かあったらすぐに電話しろ!」って俺の両肩掴んでトシが真剣な顔で言ってたから、実はそんなに仲悪くないのかも。(ギンは『うっせぇとっとと帰れ!』
って枕投げつけてたけど。)

「…………。」

あ、何か今一瞬、胸の奥がぎゅうってなった。
慌ててコップの水を飲み干す。

「…?何なんでぃ………。」

夜ってのはほんとセンチメンタルになってしまう。
何だろう、この気持ち。

二人が言い合ってるときとか、夜寝る前とかにたまに感じる、このもやもやしたもの。



キッチンの明かりはついているのに、だんだん周りが暗くなってきているような錯覚。

ひゅっと全身の血が抜けたような感覚。

「っ………!」

思わずコップを握りしめる。

じわじわと全身が闇にとらわれていく。

あぁ、これは………。









―――『  』感。














「おはー。」「わぁああああ!!」


耳元でいきなり声が聞こえて盛大に飛び上がった。
後ろで「ちょ、驚きすぎー。」とダルそうな声。

「ギ、ギン!?起きたんですかぃ!?」

「うんーなんかのど渇いた。」

振り返ると頭をぼりぼりと掻くギンがいた。
き、気づかなかった……。
何飲みやす?と聞くと水でいいわとの返答。

「ギン……?」

「んー、なにー?」

「それ、やりづらくないですかぃ?」

後ろから俺に覆いかぶさるように、ギンが俺の持ってたコップに水を注ぐ。

「いやー何かもたれかかれるもんねぇとダルくて。」

「あぁなるほど……。」

「……。」

「……。」

しゃーという水の音。

「……。」

「……。」

「……。」

「……。」

「…総悟の心臓うるさー。」

「なっ…そりゃいきなり話しかけられたらびっくりしまさぁ」

やっぱり気づかれてたらしい。さっきから俺の心臓はドクドク打ってて仕方がない。


「なになにー、なんか考え事ー?」

「べ、別にそんなんじゃ……」

「ふーん怪しいなぁー。」

ギンが水を一気に飲んで俺の首に両手を回す。
な、なんか、ギン酔ってる?いや、熱のせいでぼーっとしてるのか。

実際背中に感じるギンの体温はかなり熱い。
あんまり布団から出ていると身体によくないだろう。
そう思いギンの手を握った。

「ほら、布団にもど「いるよ。」

俺の手を逆に握りこまれる。

「え。」

「傍にいるよ。いつでも。いるから。」

風邪で少し掠れた低い声。耳元で囁かれたのに、俺の身体の隅々まで響くいつものギンじゃない声。


「わかった?」

「へ、へぃ。」

「そっか。」

「………。」

「………。」


―…な、なんなんだ………?

ギンの行動がよくわからなくて、なんだかいたたまれない。
沈黙に耐え切れず、無理やり体をギンのほうに捩じった。
顔を上げると思いのほか顔が近くて少し驚く。

ギンは向き合った俺の腰あたりに手を回して、ふんわり微笑んでいた。
でも俺を見つめる目は真剣で、吸い込まれそうになる。

「ギン、布団戻りやしょう、顔も赤いですぜ。」

その目から逃げるように、冷えぴた剥がれてる、とギンのおでこに腕を伸ばした。
風邪のときの冷えぴたは心強いんだから、と貼り直す間もギンはされるがままで、何も言わない。

本当に、熱で頭が回っていないみたいだ。


俺を包み込むギン。その触れてる部分が、何もかも熱い。

と、ギンが不意に俺の前髪をなでた。

「総悟。」

「?」

「冷えぴたあげる。」


ふにゅ、と何かがおでこに触れた。

「え……。」

何が起きたかわからない俺の手を引っ張り、寝よう、とギンが二階への階段を上がる。

え、え?

そのままギンの部屋に入って二人ともども布団になだれこみ、布団にくるまる。

俺はなぜかギンに抱きしめられた状態で、背中に腕をがっちり回された。

「ギン?」

「んーだるい……。」

「ちょっと、暑いって……。」

「んー…。」

駄目だ、完全に寝る態勢だ。

一方俺はギンの行動についていけなくて茫然と腕の中。

ギンの言動はたまによくわからないときがあるから、さっきのもきっと熱に浮かされてのことなのだろうけど。

目の前には、さっきの目つきはどこへやら、目を瞑って今にも寝そうな顔があった。

「…………。」

これはもう腕から出れそうにない。


だから、すぐそばの体温に、そっと、ほんのわずかに近づく。

ギンの考えてることは本当によくわからない。
でも、

「……おやすみなせぇ。」

この体温は、あったかくて、安心する。



*****
「―…い!総悟起きろ!」

「ん……うぇ?」

朝からうるさい…と思いながらぼんやり目を開けると、俺の上で揺れる黒髪。

「あ、トシ……おはよ「じゃねぇだろ遅刻すんぞ!」…え?」

ちらりと時計を確認したが、いつもの場所に時計が無い。というより部屋が違う。

あ、そうか、ギンの看病で泊まったんだった。

横を向くと、眩しさに目をしょぼしょぼさせるギン。

「うっせぇな朝っぱらから…俺病人ーー。」

「ギンおはよう。熱はかりやす?」

「んー。あーよく寝た……。」

ふぁあと大きなあくびをしながらギンが起き上がる。昨日よりは随分顔色もよさそうだ。

ギンに体温計を渡して、布団から這い出る。
確かにギンの言う通り、俺もぐっすり寝てしまった。

着替えなきゃ…とパジャマのボタンを外そうとすると、トシの

「何で同じ布団で寝てたんだ…?」

とまるで地を這うような声。

「え?あ、そうなんでさ、昨日……。」

昨日?昨日ってあれ……。


『ふにゅ。』


「!」

思わずおでこに手を当てる。
昨日、ギンのあれがここに……。

後ろから「熱下がってんじゃねえかばかやろー。」というのんきな声。


い、今更ながらなんか恥ずかしい!


「おい総…「は、はやくしねえと遅刻しちまう!急ぎやすよ!」

「え、ちょっと」「いやそれよりもお前らなんで布団一緒なんだ!!」

ぼんやり気味のギンとなぜか半ギレ気味のトシをたしなめて、急いで準備する。

「ちょ、ほんと朝からマヨうるせぇ!黙って待っとけや!!」

「だから布団のこと説明しろっつってんだクソ天パ!!!」

「病み上がりの病人にクソはねぇだろ謝れV字馬鹿!」

「バカのくせに風邪ひいたのどこのどいつだ!!!!」

相変わらずの二人にはぁ、とため息がこぼれる。

でも、いつものあの感覚、昨日みたいなものは不思議と感じない。むしろすっきりしたような、落ち着いた感じ。





「……効果てきめんですねぃ。」



そのまま、未だに言い合ってる二人に枕を投げつけてやった。
「どぉあ!」「総悟てめ!」

「急ぎやしょ、HRに遅れやす!」


やっぱり、この二人は俺の大切な人だ。


*****

日常篇終了!
次回からついにあのお方が登場、〇〇篇が始まります(笑)
一応伏線張ってたような…?





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