Page15



「おぃ!エレベーターってこれか!」

銀髪の刑事さんが叫んだ。
声がしたほうを振り向けばエレベーターを指差している。

古い、あのエレベーター。
すぅ、と刑事さんが一瞬師匠に見えた。

ドキッと胸が鳴った。

エレベーターの二つあるうちの一つは使われていたが一つは扉を開けて止まっている。

「そうでさァ!乗ってくだせェ!」

奇捜班方が乗り込んだ。

自分以外の全員が乗ったことを確認し、

ボタンを押した。


「え……」

奇捜班の誰かがそう言った気がした。

ゴウンと発しながら扉が一瞬にして閉まっていく。

「おぃ!ナイト!」

俺はエレベーターに背中を向けた。

「!!まさかおめぇっ…!」

がちゃんと扉が閉まる音。

「ナイト!待て!」

ゴォオオとエレベーターが上がっていく。


―…そんな声、出さないでくだせェよ。


後ろを振り返った。


そして、心の底からの笑顔を。
――ニカッ。

あのときの師匠のように。

エレベーターはどんどん上がっていく。
黒髪の刑事さんが何か叫んだが、あいにくエレベーターの音に飲み込まれ聞こえなかった。


そう。このエレベーターは古くて大人でも4人までしか乗れない。
しかも、ボタンはエレベーターの外にしかない。
扉はボタンを押せば直ちに閉まり、ボタンを押した者がエレベーター内に入ることなど不可能。

つまり、

誰かが残らなければならない。


師匠は、それを知っていて、あのときエレベーターに乗らなかったんだ。

―……あ。

そこでふと気がついた。

師匠からの教えの一つ。

『間違いを犯したとき、太陽に向かって謝罪しなければならない。』

これを教えてくれたとき、師匠は太陽のように美しい私に謝罪するようにと言っていた。

でも、よくよく考えれば、ここは光が射すことのない地下。

太陽なんてあるわけがないのだ。
なのに師匠はこの教えを説いた。

―…そうか。

あれは、伏線だったんだ。
地上に出るという。
地上に出たときに自分がいないという。

太陽が師匠じゃない。
師匠が太陽だったのだ。

この暗い地下を照らす、俺達の唯一の太陽。

―…やるなぁ、師匠。

フ…と笑い、目を拭った。


と、そのとき、どこからか機械音に雑じり聞き覚えのある声が聞こえてきた。

『…ト!―ガガッ!ナイト!聞こえてんなら返事しろ!』

「へ!?刑事さん!?」

それはあの黒髪短髪の刑事さんの声だった。

―…!もしかして…!

辺りを見渡し、あの棒を探した。
すると敵の腹の上に乗っかっているのを発見した。

その棒から声が聞こえてくる。
思い出した。――ちなみにGPS機能、音声機能も付いている。――

たしかそのようなことを言っていた。

棒を掴み、話しかける。

「この棒ってほんとに便利ですねィ。」

『何呑気なこと言ってんだ!お前なんで残りやがった!』

「何でって言われやしてもねィ…あ、そうだ。さっき俺が頼んだことちゃんとやってくだせェよ。」

『はぁ!?てめなめてんの『ちょ、土方黙れ。俺に渡せ。』

バタバタと何かの音がしてもしもし、と落ち着いた声が聞こえた。

この声は……銀髪の刑事さんだ。

『ナイトお前……死ぬ気か?』

「んなことよりさっき俺が言ったこ『質問に答えろぉ!!!!』

ビクッ。
怒鳴り声に肩が震えた。


『お前まず自分のことを考えろよ!てめぇの勝手なお節介ぐらい後でいくらでも受けてやるよ!高い交通費うえ(上層部)からむしり取って現地まで行って証拠見つけてきてやらぁ!だから!』

呆然とその声を聞く。

『死ぬんじゃねぇ!生きろ!絶対に!生きるって誓えたらてめぇの頼み事いくらでも聞いてやる!』

しばし返事が出来なかった。
少しの沈黙の後、ブッと吹き出した。

「ちょ…待って…ブハッ!ハハハ!お腹っ!痛ぇ…クククッ…!」

『ナ、ナイト?どうした?』

ヒーヒー笑ってると棒から慌てたような声が聞こえた。

目尻を拭いながらなんとか答えた。

「す、すいやせん……こっちの話でさァ…プッ。」


――だって。余りにも。

師匠と同じようなことを言うんだもの。

息が落ち着いてきたので喋りかける。

「ったりまえでさァ!俺はまだ死ねやせん!俺を誰だと思ってんでィ?鮮やかに獲物を盗む、怪盗ナイトですぜ!」

少し刑事さんが言った言葉をお返ししてやった。

「こんなとこからの脱出なんて貴方方から逃げ切ることより簡単でさァ!絶対生きてやりやすよ!」

怪盗ナイトに不可能なし!っと言ってやる。


今度は刑事さんが沈黙する番だった。

やがて声が聞こえてくる。

『よしっ!よく言った!それでこそ怪盗ナイトだ!』

「…じゃあまた地上で!」

『おぅ!』


前方が騒がしくなってきた。

棒をへし折って腰に差し、構えを取る。

棒を折ったのは未練を断ち切るため。


瞳を閉じ、心の中で話す。

―…師匠、見てやすかィ?俺は元気にやってまさァ。ちょいと、師匠の言葉をお借りします。


瞳を開け、口に出す。


「さぁて、鮮やかな脱出ショーの始まりでィ。」

どうか、お見守りを―――。





prev next



- 87/105 -




TOP
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -