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この思いが神威に届いてほしい。
そう願いながら紡いだ言葉。
届いただろうか?
伝わっただろうか?
そっと見れば前髪で顔が隠れていて、表情が見れなかった。
そしてくるりと背を向け、ポツリと言った。
「奇捜班が隣の部屋にいる。手足が機械で拘束されてるけど総悟なら解除できると思う。」
「へ?」
「地上へ出るには赤雲者や白雲子がうようよいる廊下を突っ切ってあの古いエレベーターに乗り込まなければならない。まぁそこは何とかなると思う。」
「神威?」
「奇捜班の刑事をさらったのは総悟と仲よさ気だったのを監視してたからさ、つい嫉妬しちゃって。それで刑事を襲えって命令を出した。まさか総悟か怪我したなんて知らなかった。報告は失敗だけで済まされたし。」
ぺらぺらと喋っている神威を凝視する。
「総悟を怪我させた部下は上に献上するつもりだったけどやっぱやめた。あ、献上っていうのは上でそいつの身体を分解して臓器を売るための身体を差し出すことなんだ。臓器売買ってやつかな。」
神威の言葉に昔師匠と話していたクリーム色の髪の男を思い出す。
「赤雲者ってのは白雲子に暗殺の術を教えこむいわば指導員だ。区別がつくよう赤雲者の服には時雨のマークに赤い雲がかかったマーク、白雲子には白い雲がかかったマークを。」
ふと、俺は気付いた。
「神威。」
再度呼びかける。
「なんで、そんなにも組織の秘密を俺に喋ってるんですかィ?」
少し前にここも組織だからなどと言い、刑事さんを移動させたくらいなのに。
神威は少し困ったような声でしまった、と言った。
―…しまった?
苦笑を漏らす神威。
「実はさ、時雨って洗脳とか催眠の類を専門とする組織と仲良くてね。赤雲者になれないけど臓器を売るにはもったいないっていう白雲子を洗脳して心を消し、捨て駒として使ってるんだ。捨て駒かどうかを判断するのは思春期を迎えようとしている満12歳。俺達が脱出した一週間後にそれが行われる予定だったらしいけど。師匠はそれを何としても阻止したかったみたいだね。」
フゥと神威はため息をつく。
「俺も……知らず知らずのうちに洗脳受けてるみたいでさ。たまに上を敬っているような言葉とか時雨を誇りに思っているような言葉が出る。」
『時雨の創設者でここを総統している方によって』
『一応ここも組織だから』
「だから、今ベラベラ喋っちゃってるのは、反抗期、ってやつ?でも反抗期はいつか終わる。そのときどちらが勝つのかが俺にも分からないんだ。」
「神威………。」
「言っとくけどここから抜け出せなんて言わないでね?俺は殺しとは違う、もっと別のやり方でここを潰す。そのために今は耐えるんだ。」
ギュッと拳を握りしめる神威。
「神威………。」
何と声をかければいいのか分からなかった。
でも、こんな俺でも言える言葉がある。
「絶対、生きてくだせェよ。」
神威が振り返った。
そして歩み寄ってくる。
さら、と前髪を掻き分けられる。
ふに。
何かがおでこに触れた。
目の前には神威の服の襟しか見えない。
「また合える日を」
神威が俺の両方の頬っぺたを優しく包み込み、顔を覗き込む。
「楽しみにしているよ。」
総悟、と俺の名を呼び、神威が笑った。
幼いとき、俺に手を差し延べてきたときの笑顔と一つも変わっていない、
無邪気な、こどもの笑顔。
最後に俺の頭を撫で、神威は部屋を出ていった。
「…………。」
しばし呆然としている俺。
―…え、え〜と…。
神威にされたことをようやく理解した。
どっかぁ、と顔が赤くなったのが自身でわかる。
―…神威って、あんなんだったっけ?
悶々考えていると俺の足の上に何かが乗っていた。
どうやら神威がさっきの一瞬に置いていったらしい。
―…なんだこりゃ。
あったのは
ペンチと
いつか見た棒と
―…なんだこれ。
四角く、余り多くないボタンがついた画面の小さい機械のようなもの。
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