伝えたい、届けたい。

「悪い、ヨシタケ‥」

「あ?気にすんなって!足、痛むんだろ?」

ダチに肩を貸しながら俺は病院内を歩いていた。ダチが見事に溝に嵌まったせいで足を捻ったようだ。そういえばコイツ‥ラグビー部のレギュラーだよな?ほんとに大丈夫か?こんな奴で、

「そういえば‥さっき、だれと電話してたんだ?ヒデノリたちか?」

「いや、彼女。」

「かのじょ‥?なんだそのリア充的なものは。俺の辞書じゃ、検索数は0件だぞ。エラーだ」

「ミツオ君の辞書じゃ、永遠に検索ヒットしない項目だな」

「マジか!彼女の写メ見して!」

「やだよ」

見せろ見せろとしつこいミツオ君の足を軽く踏んでやった。そうすれば簡単に黙るミツオ君。そして、彼女を思い出す。電話を切る時の寂しげな声が忘れられない。

「あーあ‥ヨシタケに先越されるとはな‥んで、どうなんだよ?幸せか?ま、なんだかんだヨシタケは優しいから平気だろ。」

「‥‥‥優しい、か。」

「ああ!自信持てよ」

「‥‥俺のこういう行動が、逆にあいつを傷付けてるとしたら‥」

「ヨシタケ?」

「その優しさなんて、意味の無いことだけどな」

俺が小さく呟いた言葉の意味をミツオ君は理解出来ないらしく、眉をしかめて首を傾げた。

「俺は、さ。一番優しくしたい奴に一番優しく出来ない奴なんだよ。」

現に、俺はあいつを泣かせてる。

帰り道に見えた真ん丸の月を見て涙をこぼすあいつの姿が浮かんだ。



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