やっぱり、きみは優しいね。
カラオケを楽しんだ私たちはすっかり暗くなった道を歩いていた。もちろん、腕を組むことは忘れていない。
「今日は楽しかった。ありがと、ヨシタケ」
「おう、楽しめたならよかった」
「ヨシタケも楽しめた?なんか私ばっかり気にしてるけど‥」
「‥‥‥‥‥」
私がヨシタケに今日の感想を振るとヨシタケは黙ってしまった。あれ?楽しくなかったのかな?
「今日はさ、俺らの‥」
「うん?」
「付き合い始めてから半年の記念日だろ。」
「‥覚えてたんだ、」
驚いてつい本音が口から出ていた。するとヨシタケは苦笑する。
「当たり前だろ、ばか」
「ご、ごめんごめん」
「‥いつも、迷惑かけてっから。寂しい思いさせてて、だから‥今日くらい思いっ切り楽しんでほしかったんだよ。」
「ヨ‥シタケ‥」
「ダチばっか優先して、ほんと彼氏失格だよな、俺。でも‥そんな俺に対して愛は文句ひとつ言わねェから、俺は‥今までずっと甘えてたんだ」
「‥‥‥‥‥」
「いつも俺を待つ愛の姿を見て苦しかった。何時間も待たせたり、せっかく愛が誘ってくれたのにも関わらず、断ってダチんとこ行ったり‥ほんとごめんな。今まで、辛かったろ。」
「‥‥‥‥‥‥」
「そんで、今までありがとな。こんな駄目な俺の隣にいてくれて」
「ヨシタケ‥ちょ、なんかそれ別れの言葉みたいなんだけど。」
「ち、違ェよ!俺はもう愛に寂しい思いをさせないように努力するからこれからもよろしくって言いたかったんだよ!」
慌てて言うヨシタケ。ていうかさ‥なんていうか‥うん、本音‥だだ漏れだよね。気付いてないのかな。いや、嬉しいんだけどなんかもうちょっと雰囲気とか‥
「雰囲気は愛が壊したんだろ!」
「あ、それもそっか。」
「なんだよ‥せっかくの雰囲気がぶち壊しじゃねェか‥」
「それについては正直すまんかった。」
私は落胆するヨシタケの肩をポンポンと叩いた。
「‥でも、ヨシタケがそんなこと考えてくれてるなんて思ってなかった。確かに、寂しいとか思ってた。だから、ヨシタケがそう考えてくれてたのは嬉しいよ。いつも私を優先してほしいなんて言わないからさ、私と一緒にいる時だけでいいから‥その時は私だけにその優しさを向けてほしい。‥なんて、我儘かな?」
私が冗談混じりに本音を言った。困るかな?と考えたけれどヨシタケは私の想像していた反応と全く違う反応の見せた。
「‥‥やっと、だな。」
「え?」
「やっと、愛の本音が聞けた。」
「私の‥本音?」
「いつも笑って我慢してるから、愛の本音が聞けて素直に嬉しいんだよ。ごめんな、寂しい思いさせて。これからは寂しいなんて思わせないくらい一緒にいっから。」
ヨシタケがそういって笑う。どうやら、私が思ってる以上にヨシタケは私のことを考えて、そして見ていてくれたようだ。
ああ、どうしよう。なんだか胸が締め付けられる。でも、これはヨシタケを待っている時のような苦しみじゃない。締め付けられてるのに私の心はとても満たされていた。
「‥うん、傍にいてね。私は寂しがり屋だから」
「おう、約束だ。」
ヨシタケが差し出した小指に私の小指を絡める。温かい、ヨシタケと絡めた指も、心も。
やっぱり、私の彼は優しい。その優しさを発揮するのはいつもお友達で、私は二の次。でも、これからはそれも少し変わると思う。
だって、約束してくれたから。
私は今までの自分の黒い感情が消えたのを感じた。きっとこれも私を思ってくれる大切な人のおかげ。ああ、やっぱり私のヨシタケは優しい。その優しさは誰にでも惜しみなく与えられる。友達にも‥そして、もちろん私にも、だ。
「ねえ、ヨシタケ。ヨシタケが朝、私を迎えに来てくれた時‥私、河原にいたでしょ?実はあれ‥徹夜でヨシタケを待ってたの。知ってた?」
「マジで!?」
私が悪戯っぽく笑うとヨシタケは顔を真っ青にして叫んだ。
不満に思ったこともあるけれど、私が彼に惹かれた一番の理由はやはり彼のこの優しさだと‥そう強く思った。
-fin-