「お疲れ様でした。」
「待て、」
「‥‥‥‥‥」
私は急いで店長がいる部屋を通り過ぎようとした。だが、店長は私が通り過ぎる前に私を制止した
「‥‥来週のシフトならもう聞きましたけど。まだなにか?」
「ああ、それだがな‥お前は来週の日曜日は外れろ」
「え!?私、入れますけど!」
「店長命令だ。その代わり‥土曜日の深夜入れ」
「無理!土曜日は無理ってメモに書いて渡したじゃないですか!」
「黙れ、人足りねェんだ。」
「それじゃあペンギンとか入れればいいじゃん!優しいペンギンなら二つ返事で入ってくれるよ!」
「ペンギンは朝だ。月曜日から金曜日まで早朝働いてるペンギンを深夜に入れるのか。鬼だな、ウミ」
「うっ‥で、でもですね!土曜日の夜は大学のサークルの飲み会があるんですよ!だから無理です!」
目に深い隈を刻み、けだるそうに椅子に座る店長‥トラファルガー・ローは反論する私を見て心底、意地の悪い笑みを見せた。
「断れ。」
私の土曜日の深夜勤が決まった瞬間であった―‥
「眠い眠い」
「うるせえ、働け」
「働いてます。店長こそ働いてください」
土曜日の深夜‥私は品物を棚に並べながら横で大人の本を立ち読みしている店長を睨みつけた。
「おれは今、忙しい。」
「エロ本読んでる人がなに言ってるんですか‥寝ぼけたこと言ってないで仕事してください」
「チッ‥」
仕方なさそうにエロ本を閉じる店長を見て、なんでこんな人が店長をやっているのかわからなくなった。
「‥‥はあ、今頃は二次会かな‥」
本来行くはずだった飲み会を考えつつ、品物を次々と置いてく。
「おい、客。」
「‥はいはい‥」
店長から言われて立ち上がり、レジに向かう。店長はそんな私をただ見てるだけだった。
「ありがとうございましたー」
眠気を抑えつつ、私はお店から出ていくお客様に営業スマイルを見せる。
「ハッ、眠そうな顔しやがって」
「深夜勤なんで。」
「んな顔で笑顔見せてもな、」
「スマイル0円です。というか接客業に笑顔は必要不可欠でしょ‥」
あくびを噛み殺しながら私は茶々をいれてくる店長と会話する。永遠に続くかと思われた夜勤に終わりが訪れた。
「おはようございます」
「あ、ペンギン。おはようございます‥なんか今日はいつもより張り切ってるね」
「ああ、ちょっとな。」
「どうせまたいつも朝来る女子高生を無表情で舐め回すように見てんだろ。このムッツリが」
「失礼なこと言わないでください」
「へえ‥ペンギンにそんな子いたんだ。頑張ってね」
「ああ」
「じゃあ、お疲れ様です。」
私はロッカールームに向かい、着替える。着替えが終わってレジに立つペンギンに挨拶し、店の外に出る。
すると‥
「遅ェ。」
自身の車に寄り掛かり、いつの間に着替えたのか‥バッチリ私服になってる店長を見た。
「‥なんですか?」
「お前を待ってたんだよ」
「なんのために?」
「感謝しろ、送ってやる。」
「結構です」
「乗れ」
「話聞いてください」
「イヤなのか?」
「そうだと言ってるんですが」
「気にするな、ほら」
「わっ」
店長は私に温かい紅茶を投げた。ちゃんと私の好きなミルクティーで、私は紅茶を見た後に店長を見た。
「なに企んでるんですか」
「お前は本当に無粋な奴だな。夜勤頑張ったバイトに紅茶奢るくらいでなんでそんな思考に陥る。捻くれた奴だ」
「精神捩曲がった人に言われても」
「いいから乗れ」
私は疲れたこともあって仕方なく店長の高そうな車に乗る。私は窓に頭を寄せて外の景色を眺めていた。
家に着いたので、とりあえず送ってくれた店長に礼を言う。
「ありがとうございました」
「ああ、」
「それと、紅茶‥ご馳走様でした。美味しかったです」
「ああ。」
「‥‥店長、来週のシフトですが」
「なんだ?」
「夜勤ってほんと人いませんよね」
「そうだな。」
「‥また、帰りに紅茶おごってくれたら入ってあげなくもないですよ。どうせ店長、毎日いるでしょ」
「紅茶でもなんでも奢ってやるよ」
「随分と気前いいですね」
「だから、週七入れ」
「殺す気か!!」
二人っきりの夜の店内
(あなたがいるなら夜勤も、)
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