あなたには敵わない



「本当に愛さんは愛さんですね」

「ありがとう。」


ファミレスで向かい合わせに座って、俺は目の前にいる年上の彼女の愛さんを見た。


「‥愛さんはどうしてそう‥軽率なんですか。もう少し考えを持って行動したほうが、これからの愛さんのためになると思いますよ」

「え?い、いや‥ぶっちゃけコレは全面的に私のせいじゃないと思う」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

「いや‥でもさ、仕方なくない?私だって大学のあれがあるワケよ‥そりゃあね、私だって出来ればとしゆきと一緒にいたいよ」

「でも、サークルがあるんでしょう‥俺との約束の方が先だったのに」

「う‥ごめんなさい。」


俺が怒っている原因‥それは、


「‥花見、」

「‥‥行く約束してたもんね」


俺と愛さんは春休みを利用し、明日‥桜の名所に行く約束をしていた

だが、そこで問題が発生した。


「発表会‥でしたっけ、」

「そ、そうそう。地元の新聞紙が私のやってるサークルの取材に来てその発表会を見る‥んで私もレポートを発表する、的な」

「‥‥‥‥‥」

「い、イェーイ!私もサークルもとうとう地元の新聞に載っちゃうくらいの有名人に!!‥なんちゃって、」

「‥‥はあ‥、」

「‥ごめんなさい。で、でも急いで帰ってくればなんとか‥」

「愛さんの大学、片道2時間でしょう?花見の場所は5時に閉園します、どう考えても無理ですよ」


愛さんの入っているサークルの活動を地元の新聞紙が注目したらしく、レポートの発表会に取材に来るようで‥それで愛さんのレポートも発表会で出すということになって愛さんも急遽行くことになったのだ


「‥ごめん!絶対埋め合わせする!」

「‥もういいですよ。明日のサークルの発表会、頑張ってください」

「ちょ、と、としゆき!」


俺は立ち上がり、踵を返す。愛さんが俺の名前を呼んだが、俺は振り返ることはせずに店を後にした―‥




「‥‥‥‥‥‥」


次の日、俺は家にいた。なにもする気が起きずに朝からずっとベッドに寝転んでる

愛さんは発表会で自分のレポートを発表しているだろう


「夕方か‥もう、閉園時間になるな」


窓から外を見ると空がオレンジ色に染まっていた。そして、昨日のファミレスでの会話を思い出す


「‥少し、言い過ぎたか‥?」


約束を破られたことがショックで、キツく言い過ぎたかもしれない。愛さんは何回も謝っていたし‥

でも、やはりショックだった。表立って喜ぶことはなかったが‥内心、俺はとても嬉しかったのだ

普段は大学の講義やレポートで忙しい愛さんと久しぶりに遠出出来ることが

それが前日になって出来ないと言われて、とても悲しくて‥愛さんを追い詰めるように怒っていた


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」


それは約束を破った愛さんが悪い、とか色々なことが頭を過ぎるが、愛さんが見せた悲しげな表情が消えなくて‥気付けば俺は携帯を開いていた

愛さんに電話を掛けようとした時‥


「としゆきーーっ!」

「っ!」


窓の外から愛さんの声が聞こえた。俺は慌ててベランダに出る


「はぁ‥はぁ‥、遅れてごめん、お花見行こう!」

「花見って‥もう閉園時間が、」

「大丈夫!行こう!」


愛さんに言われるまま、俺は急いで準備をして外に出た


「何処に行くんですか‥?」

「内緒、」

「なんですかそれ」


俺は愛さんに手を引かれ、飛び乗るように電車に乗り込んだ

電車を降り、そのまましばらく歩いていると公園に辿り着いた


「よかったぁ‥咲いてて、」

「ここは‥」


公園に入ると桜の花びらが舞っていた
十数本の桜の木が集まって咲いている


「昨日、夜でも見れるとこ探してて‥約束してた場所ほど桜があるワケでもないんだけど‥でも、どうしても、としゆきと桜が見たくて‥」

「‥なんで、ですか‥?わざわざ‥」

「約束、だから。」


そういって笑った愛さんを堪らず俺は力強く抱きしめた。


「ありがとうございます‥愛さん‥」

「としゆき‥ごめんね、先に約束してたのに私が破っちゃって。許されることじゃないけどね‥本当に私も楽しみにしてたんだよ。」

「はい‥っ!」

「名所じゃなくて悪いけど‥」

「‥いいえ、いいです」

「だから今度、あそこに行こうね」

「いや‥此処が、いいんです。」

「としゆき‥?」

「あなたと見に来れるなら‥何処だっていい、あなたと見れるなら、そこが名所であろうがなかろうが‥どうだっていいんです。」


俺は愛さんを抱きしめたまま、桜を見る。愛さんも俺につられるように桜を見た


「愛さん‥あの、昨日は‥すいませんでした」

「なんでとしゆきが謝るの?」

「いくら怒っていたとはいえ‥言い方とか、キツかったかと」

「ああ‥いいよ。悲しかったけど‥よく考えたら、私‥わかったの」

「なにをです?」

「としゆきがあんなに怒ったのって‥それだけ私と花見に行くのを楽しみにしてくれてたってことでしょ?なら、逆に嬉しいよ」

「う‥、」


なんだか恥ずかしくて、愛さんの肩に顔を埋めた


「もう、としゆきは昔から私が大好きなんだから。」

「‥うるさいです」

「照れてるとしゆきもかわいい」

「男はかわいいなんて言われても嬉しくありませんよ。後、頭撫でないでください、子供扱いは嫌いです」

「頭撫でられるの好きなくせに」


そういえば、昨日からこの人の笑顔を見ていなかった気がする。でも、今は俺の目の前で愛さんが笑っている

それが、とても幸せなことなのだといまさら気付いた。


「‥‥愛さん、好きです」

「私も好きだよ」

「大好きなんです」

「私も大好き」

「愛してます、愛さんだけです」

「うん、わかってるよ。」


俺の背中に回されてる愛さんの手がポンポンと優しくあやすように俺を撫でる


「言って、愛さん‥」

「私も‥としゆきを愛してるよ、としゆきが好きなの、だいすき。」


ああ、なんて幸せなんだ。と幸せを噛み締めていたら愛さんが俺から離れた


「愛さん‥?」

「コラ、そんな寂しそうな顔するんじゃないの。せっかく、桜を見に来たんだから」

「‥なんです?」

「日も落ちてきたし‥夜桜鑑賞!じゃーん!お弁当も持ってきたの!」


荷物の中から愛さんはビニールシートと弁当を取り出した


「実はコレ‥朝、作ったの。走ってきたからお腹空いちゃった。食べよ?」

「はい」


ビニールシートに座り、弁当を開けた


「‥‥‥‥‥‥‥」

「‥‥おお、寄り弁‥」


弁当を開けた瞬間、俺も愛さんも固まった。

きっと綺麗に盛り付けられていたのだろう中身のおかずがとんでもないことになっている


「‥走って来たからじゃないですか」

「う、う〜ん‥」

「大丈夫、味は変わりませんよ」


二人で笑い合い、桜を見ながらあまり見栄えの良くない弁当を食べた。


「ご馳走様でした、弁当‥とても美味しかったですよ」

「ごめんね、来年こそはちゃんとキレイなお弁当作るから」

「!‥‥‥」


愛さんが自然に来年の話をした。それが、とても嬉しかった


「はい‥!来年も、今日みたいに二人で‥花見に来ましょう、」


俺は笑って、隣で桜を見る愛さんの手に自分の手を重ねた。



∴( あとがき )

アンケ1位の唐沢さんです
断トツでした流石です
思ったより長くなっちゃいました
そして思ったより唐沢さんのキャラ崩壊して誰おま状態に‥^p^

10000HITありがとうございました!
これからもよろしくお願いしますっ!

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