愛そうか、骨の髄まで


「おはよう、キラー!」

恐らく‥いや、きっと彼女はおれに好意を寄せている。別に、自惚れている訳ではない。彼女の態度が、言葉が‥すべておれへの好意を物語っているから。毎朝、わざわざこうしておれの元へ会いに来るのも、きっと好意を抱いてくれているから。


「席‥隣、良い?」

「ああ、構わない。」

食事の時だってそうだ。こうして彼女はおれの隣を選ぶ。それより‥いつも隣に座るのだから毎回許可をとらなくてもいいと思う。おれが断る筈ないのに。

「今日はナポリタンだね!美味しそうだけどマスク大丈夫?」

「ああ。おれよりも自分の口元を心配しろ、口の端にケチャップがついているぞ」

「え!?」

あわてふためく姿に、笑みが浮かぶ。自分の口元を拭いた後に照れ臭そうに笑う顔も素直にかわいいと思う。この食事の時間は嫌いじゃない。


「わ、また武器の手入れ?」

「して損は無いからな」

「うん、そうだね。ねえ、邪魔しないから見てていい?」

「いいぞ。面白いものでもないがな」

おれの隣に座って、ただおれの武器の手入れを見ている。他人の武器の手入れなんか見てなにが楽しいのかはわからないが、楽しそうに見ているので退屈はしていないのだろう。特に会話もないが、今‥この静かな空間は嫌いじゃない。


「こんばんは!夜は冷えるからあったかいコーヒーの差し入れに来たよ!これ飲んで不寝番がんばってねキラー!」

「ああ‥済まないな、助かる」

おれが不寝番をすると彼女は必ず温かいコーヒーを差し入れに来てくれる。そして一緒に飲むのだ。特に異常もない日だととても助かる。こうして二人でコーヒーを飲みながら話をしていると退屈をせずに済む。

「はあ‥昼はあったかいのに、夜は冷えるね。寒いくらい」

「大丈夫か?タオルケットがあるから使っていいぞ」

「平気!不寝番のキラーが使いなよ。それに‥どう考えてもキラーのほうが薄着だから寒いでしょ」

「そうだな‥なら、二人で使うか。二人でも大丈夫だろう」

「ええ!?」

「嫌か?」

「い、いやじゃないけど‥!」

「そうか。なら問題ないな」

「あるある!大有りだよ!私は構わないんだけどね!キラーだよ!キラーは平気なの?」

タオルケットを羽織り、半分開けると彼女は顔を真っ赤にして首をブンブンと横に振った。わかりやすいな。もう少し隠すことを覚えた方がいい。

「ああ。遠慮する必要は無い」

「え‥あ、ありがと‥ございます。じゃあ‥お邪魔します‥」

怖ず怖ずとタオルケットの中に入る彼女を招き入れ、隣同士に座る。朝や昼の時よりも近い距離に彼女が座っている。

触れ合っている肩から体温が伝わってくる。ただの人肌だというのに‥今はとても温かく感じる。隣にある体温を感じながらおれはふと気付いた。そういえば、ここ最近‥おれはずっと‥彼女のことばかり考えていた気がする。朝も昼も夜も、いつも彼女のことを考えていた。

「‥‥‥‥」

「‥たった今だが、気付いたことがある。聞いてくれるか?」

「う、うん!なに?」

「最近、おれの頭の片隅には‥いつでもお前がいる。そしていつもお前のことを考えている。ということに今気がついた」

「は‥?」

「お前の朝の挨拶が無いとおれの一日は始まらない。そして、食事の時にお前がおれの隣に座らないと落ち着かない。武器の手入れにお前が隣にいると心なしかいつもより手入れをする時間が楽しくなる。不寝番の時は温かいコーヒーを持って来てくれるお前を待っていた。‥いつからか、これらがおれの中で、当たり前になっていたんだな」

「え‥えっ‥?」

そうだ。おれの日常の中にお前がいることが当たり前になっていた。その真っ赤になった表情を見れることが嬉しいと思う。

「そしておれは、」

おれを好いて、一生懸命におれを追いかけてくれるお前を‥おれは、

「おれは、ウミを愛したい」

「‥‥‥‥‥」

夜で辺りは暗闇に包まれているが、微かな月の明かりでウミの頬が真っ赤だということがわかる。口をパクパクとさせて動揺している。

「だが‥おれは‥愛し方を知らない。どうやってウミを喜ばせられるかも‥普通の恋人らしいこともなにもわからない。ウミのことを思う気持ちは確かにあるのに、これをどうしたらいいか‥おれにはわからない。」

「キラー‥」

「人を傷付ける術は知っているのにな。いや、‥それしか知らないのか。人の愛し方なんて、おれは知らない。だが、おれはウミを愛したいんだ」

「‥‥‥‥‥」

傷付けてしまわないか、泣かせてしまわないか、そればかりが気になる。大切にしたいと思えば思うほどに、戸惑いが生じる

「正しい愛し方を知らないおれがウミを愛したいだなんて荒唐無稽にも程があるな、」

自嘲気味に吐いた言葉はウミの手に寄って遮られた。おれの手を包み込む温かい感触‥ウミは真っ直ぐにおれを見詰めていた。その表情の真意がおれには読めない。

「‥やはり、呆れたか?」

「ううん、違うよ。」

「では‥愛想が尽きたか‥?」

「ううん、それも違うよ」

「‥‥‥‥‥」

「ねえ、キラー。」

「‥‥なんだ?」

ウミの言葉を待つ。内心、おれはとても不安がっていた。ウミの口からおれへの拒絶の言葉が出たら、と思うと胸がとても苦しい。だが、ウミはそんなおれの不安を一蹴するかのように優しく微笑んだ。

「‥正しい愛し方なんて、私も知らないよ。それに、正しい愛し方なんてきっとない。愛し方は人それぞれだから。だから、それでいいんだよ」

「ウミ‥」

「‥それにね、キラー。キラーはもう私にたくさんの愛をくれてるよ。愛してくれてる。それがわかってすっごく嬉しい!」

「おれが‥既にウミを‥?」

「うん!キラーは、私を大切に思って大事にしてくれてる。嬉しい、キラーは私を優しく愛してくれてるんだね。」

夜の闇で良く見えない。だが、微かに頬が赤らんでいるのが見える。‥嬉しそうに微笑んでいるのも。それだけでおれの中のなにかが満たされた。

「私は私の、キラーはキラーの愛し方でいいと思うの。」

「‥‥そうか。おれがウミを思うこれが‥愛なんだな、」

胸のあたりに温かいものが芽生えたことを感じながら、おれは隣にいる愛しい存在をおれなりの愛し方で精一杯愛そうと胸に誓った。






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