好きの気持ちの理由
彼の好きなとこ、と聞かれたら私はとても悩むだろう。男を選ぶ時にみんなが見るであろう顔なんて私は見たことがない。いつもあのマスクだからね。素顔の時だって部屋は暗いから見えない。じゃあ、性格?良く聞くのは優しくて面白くて包容力のある人!‥まあ、キラーは厳しいけれど優しいし、包容力はあるからあながち間違ってはいないけど、性格で好きになったかと聞かれれば‥うん、悩む。
「‥じゃあ、なんでだろう?」
「どうせまた変なことで悩んでいるんだろう?」
「変なことじゃないし。私たちの未来にとってとても重要なことなのよ。」
「おれたちの、か?」
「ね?重要でしょ」
「おれに不満があるなら聞く」
「不満ではなく、疑問。」
「疑問?」
キラーはストローから口を放して私を見た。視線を感じる。
「そう。私はなんでキラーを好きになったんだろうって」
「‥‥‥‥‥」
「私はキラーのどこを好きになったんだろうね。顔?性格?どれも違う気がするの」
「‥成る程、そう言われればおれも何故、数いる女の中からウミを選んだんだろうな。」
「ね?」
キラーは珍しく私の悩みに同意をした。いつもならあっさりと答えを出されて論破されるから今回のケースは珍しい。
「ウミは良くも悪くもすべて平均だからな。」
「‥なによ、Cカップくらいがちょうどいいのよ」
「だが、ウミ以外の女は考えられないのも事実だ。」
「‥ああ、うん。確かに、私もキラー以外は考えられないや」
キラーの言葉に私も頷いた。どんなに島でカッコイイ人を見付けても私は(あ、あの人イケメン)くらいにしか思わない。
「‥‥‥なんでかなあ‥」
「‥‥‥‥‥」
私は飲んでいたミルクたっぷりのミルクティーで喉を潤す。砂糖も入れた甘いミルクティーは私の脳にも糖分を回して、きっとこの悩みを解決に向かわせる働きをするだろう。
隣にいるキラーは考えているのか、なにも話さなかった。私はウンウン唸って考えてみる。
途中で(二人で悩むなんて珍しいなあ、でも悪くないや)と二人でなにかをする行為に喜びを感じていると私はふと気付く。
「あ‥」
「どうした?」
「ああ、そっかぁ。それなら納得出来るや。うんうん」
私は自分の中に浮かんだ結論に頷く。キラーは首を傾げているからまだわからないのだろう。そうだ、私がキラーを選んだ理由‥それは本当にごく当たり前のことだった。
「一緒に居てくれたからだ。」
私は先程の自分の考えを言う。するとキラーはしばらく考えて頷いた。
「いつも、一緒にいてくれたからだね。そんで心地好いし」
「難しいことでもなかったな」
「普通のことだね」
「でも、その通りだな。」
いつも一緒に居てくれたキラーだから好きになったんだなあ。そういえばキラーは私が嬉しい時も、楽しい時も、悲しい時も、怒ってる時も‥どんな時でも傍に居てくれたな。
「ねえねえ、キラー。」
「なんだ?ウミ」
「‥‥これからもさぁ、」
「ああ、」
「一緒に居ようね。」
「もちろんだ。」
自分で言っておいてなんだけれどとても恥ずかしい。こういう雰囲気とノリは良くない。ノリに任せて言うもんじゃないなと後悔と反省をした。照れ臭くて飲んでいたミルクティーを飲み干す。甘い、今の雰囲気並に甘ったるい。嗚呼、だれかこの変な雰囲気を看破してくれ。
「‥‥たまにはいいな」
「え?」
「こういうのも‥悪くない。」
目を丸くしてキラーを見ると、恐らくマスクの中で微笑んでいるのだろう。声や雰囲気がとても優しい。
「‥私のパッと思い付く悩みも全部が全部、くだらないものじゃないみたいね?」
私がおちゃらけて言うとキラーは軽くマスクの中で笑った。
「ああ、今回で面白い結果が導き出されたんだ。どうだ?次もまた二人で悩んでみるか」
「うん!そうだね!」
とっても穏やかな昼下がり、私とキラーは互いの気持ちを確認して、また絆を深めた。私の素朴で本当に些細な疑問がこんな素敵な結果になった、そのことが嬉しくて私はまた笑った。
好きの気持ちの理由
(悩んで悩んで、また答えを)