不完全恋愛論


 
「もし、もしもの話だよ?」

今日はキッド海賊団にしては珍しく穏やかな航海をしていた。キラーは退屈そうにぼんやりと海を眺めていた。するとそこに仲間であるウミがやってきてキラーに声をかけたのだ。

もしも、ということはifだ。

キラーは視線を海面からウミへと移した。キラーの視界に入ったウミはとても上機嫌なようで、にこやかに笑っている

「もしもの話?」

「うん、もしものお話。」

「なんだ?」

「私が二人いたらどうする?」

「そうだな、船が余計に騒がしくなるな」

「そういうことじゃないよ」

「わかってる。」

「じゃあ、どうする?」

「恐らくなにも変わらないな」

「‥あっそ、聞く必要ないけど敢えて聞くね。キラーの好きな人のタイプってどんな子?」

「ウミみたいな奴だ」

キラーは迷いもなく言った。ウミはやっぱりね、とでも言いたげに肩を竦める。そして小さく溜息をついた

「私じゃなくて?」

「ああ」

「私以外でもいいの?」

「いいや、出来ればウミがいいな」

「素直に私にすればいいのに」

「それは断る。」

キラーのその言葉に口を尖らせるウミ。だが、ウミは始めからキラーがそういうことなどわかっていた。

「私がもうひとりいて、海軍だったら?」

「交際を申し込む。」

「私がもうひとりいて、民間人だったら?」

「交際を申し込む。」

揺るがないキラーの声にウミは苦笑した。僅かに赤らんだ頬を隠すことなくキラーに真正面に向き合い、再び尋ねる。

「じゃあ、もうひとりの私が‥海賊だったら?」

「他船のクルーだったら、交際を申し込む。同じ船に乗る仲間だったら‥なにも変わらない、おれの仲間だ。それ以上でもそれ以下でもない。」

残酷にもキラーはきっぱりと告げる。告げられたウミは全てを理解したように目を伏せ、そして目を開き、笑った。

「ほんと、頑固なんだから。」

「お互い様だろう?」

「ええ、そうね。頑固者同士の恋ってほーんと大変だわ」

くるりと反転し、ウミは船の中へと戻って行く。戻るウミの瞳から一筋の雫が流れた。

キラーはなにも言わずに再び視線を海面に戻す。


ifの話が本当にあったのなら二人は今頃、仲良く寄り添い合って愛を育むのだろう。

だが、キラーとウミは同じ船に乗る仲間だ。船長を海賊王にするという夢を持つ仲間。仲間である以上、キラーもウミも寄り添い合うことはしない。想い合っていたとしても、それは揺るがない。

「残念ね、どっちかが船を降りなければ叶わないなんて。」

だが、二人がその道を選ぶことは一生ないだろう。


不完全恋愛論
(きっとずっと、変わらない)








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