(!)死ネタ。
純白のウエディングドレス。そのドレスを着ているのは綺麗に着飾った私。涙ぐむ父の横を歩き、笑顔の彼が待つ場所に行く。彼は小さな声で綺麗だなって言ってくれるの。そして永遠を誓い、指輪を交換して‥彼はそっと私の顔を隠すベールを優しく持ち上げ、私にキスをする。
女の子なら誰だって一度は夢見るでしょう?私も例外じゃなかった。
それが‥私の夢、だった。
でも、今の私は赤に包まれていた。白かった彼のお気に入りのワンピースは今では面影がない。ジワジワと染まっていく赤に嫌気がさした。
照れ屋で普段はそんなこと言わない彼が似合うと言ってくれたワンピースは、その日から私のお気に入りのワンピースになった。
いつか、白のワンピースじゃなく‥純白のウエディングドレスを着たいと思ったのは彼には内緒。
灰色の空から降る雨が、横たわる私の体を冷たく濡らす。
私の理想とは真逆。雲一つない快晴の日に、教会で純白のドレスで結婚式を挙げたかったのに‥
現状は灰色の空に薄暗い路地、真っ赤なワンピースで横たわる私。
夢の彼は私の横で笑っていたのに‥現実の彼は私を抱き抱えて悲しげな顔をしている。
どうしてなのかな、どうして‥夢と現実は、こんなにも違うのかな。
「‥と‥しゆ、き‥」
「愛!待ってろ、すぐに救急車が来るからな!」
ああ、大変。としゆきの白いシャツが赤く染まっちゃう。としゆきには白いタキシードを着てもらおうと思っていたのに。
「ごめ‥、ね‥」
「大丈夫だ。だからもう喋るな!」
「ワ‥ンピース‥、汚し‥て‥」
「こんな時になにを‥」
「としゆ、き‥が‥似合うって‥言っ、てくれ‥た‥のに、」
「!‥馬鹿だな‥愛が着るならなんでも似合うに決まってるだろう。もちろん‥」
としゆきは弱々しく笑って、謝る私にこれまた弱々しいデコピンをする
「純白のウエディングドレスも。」
「‥ほんと‥う?」
「晴れの日に教会で、」
「う‥ん、」
「式を挙げよう。」
「‥うん‥っ」
「みんなも呼んで、」
「した‥いなぁ、けっこ‥ん。」
「しよう。ドレスやタキシードも二人で選びに行ってな」
どうしようもなく嬉しい。どんどんとしゆきが見えなくなっていくのに私の心は満たされていた。
ただ、心残りは実現出来ないこと。
「‥しあわせ、だ‥なぁ‥」
「なに言ってるんだ。これからもっと幸せになるんだぞ?」
珍しくからかうような口調のとしゆきに私も笑って返す。遠くから救急車の音が響くけど、私はもう助からない。
赤の水溜まりにいる私ととしゆきは真っ赤だ。純白の花嫁になりたかったのに‥純白の花婿の隣に相応しい花嫁になりたかった。
でも、それは叶わないらしい。
もう視界が霞んで良く見えないけれど、私はせめてとしゆきの頬についてるであろう血を拭おうと手を伸ばした。
「‥‥愛‥?」
「あ、はは‥だ‥め、みたい‥」
頬を親指で擦るけれど、血は落ちない。それどころか、さらに広がってしまう。綺麗にしてあげたいのに、真っ赤な私の指ではそれすら出来ないようだ。
あまりにも私のこの行動が、無意味な行動過ぎて笑える。
「真っ赤‥だ、ね‥わたし‥、」
「‥‥そうだな。愛も‥俺も。」
「お、揃いだ‥」
「ああ、一緒だ。」
「‥じゃ‥じゃあ、さ‥」
私は憧れの純白の花嫁にはなれなかった。でも‥それでも、
「わ‥たしは、真っ赤‥な、は‥なよ‥めさんだ‥ね。」
「俺は、真っ赤な花婿だな。」
としゆきは少し赤が付着した帽子を取り、私の耳元に口を寄せた。耳元でとしゆきが囁いた言葉に、私の目尻からは涙がつたう。
――綺麗だな。
雲一つない快晴じゃなくても、此処が教会じゃなくても、純白のウエディングドレスを見に纏っていなくても、
としゆきのその言葉で、私の心は‥満たされたのだ。
ぼんやりと微かに映るとしゆきを見ながら私は静かに瞼を閉じた。閉じた瞬間、私の冷たい唇に温かいなにかが触れた。
その温かいなにかの正体がわかって私はひとり‥微笑んだ。
真っ赤な新郎新婦 白じゃなくても、君と一緒なら
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