「‥‥どうしたの?」
彼を見た私の第一声は、静寂に包まれた部屋の中に溶けて消えた。
おかしいな、と首を傾げる。そして昨日の夜に彼と交わしたメールを見る。うん、やはり異常は無い。それなのに彼は今‥ベッドで体育座りをして激しく落ち込んでいる。
一晩の間になにがあったのだろう?
彼女がわざわざ家にまで遊びに来たというのに、モトハルは落ち込んでいる。
昨日は私が家に遊びに行く、と連絡したら喜んでいてくれたのに。私は心配になってベッドに歩み寄る。
「モトハル?大丈夫‥?」
「‥‥愛‥すまねぇ、俺は‥俺は、最低な男だ‥!」
「ちょ‥ど、どうしたのよ急に‥」
「お前という彼女がいながら俺は‥どうしようもない奴だ‥っ、」
モトハルは過剰なまでに自分を責める。そして私に謝り続ける。私はモトハルに謝られることなんてなにもないのに‥
「モトハル、どうしてそんなに自分を責めるの?理由を話して‥ね?」
私が優しく諭すと、モトハルはようやく理由を話し始めた。
「俺‥、‥う‥浮気‥したんだ。」
その言葉に息が詰まる。慌てて聞き返すが、モトハルはやはり浮気をしたと言う。頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。
モトハルが浮気?私というものがありながら‥?
目の前が真っ暗になりつつ、私はなんとか口を開いた。
「だ、誰と‥かな?」
「‥愛‥」
「いや、だから、モトハルが浮気をしたっていう人は一体‥」
「だから、愛。」
「‥‥‥‥?」
つまり、浮気相手が私?なんだ? 本命は別に居て‥私が浮気相手だったということなのか?
私はただの遊び相手‥モトハルには別に本命の彼女がいる?
「な‥わ、私は‥ただの暇潰しだったっていうの?私は浮気相手で、本命の彼女が‥」
「違う。」
「な‥にが違うって言うの?」
「俺が浮気をしたのは‥」
そういってモトハルは私を見た。 思わず涙が滲む。いきなり浮気したとか言われて、そして、その浮気相手が自分と言われる。頭が混乱して収拾がつかない。
モトハルは無情にも言葉を紡ぐ。
「夢の中の愛だからだ。」
「‥‥は‥?」
意外な言葉に滲んでいた涙も引っ込んだ。モトハルは申し訳なさそうに夢での話をし始める。
「俺さ‥夢で愛とデートしてたんだ。すげえ嬉しくて、幸せで‥でも途中で気付いたんだ。夢の中の愛と、本物の愛は違うって‥そしたら急に罪悪感が湧いて来たんだ‥俺には本物の愛がいるのに‥夢の愛とデートしてたなんて‥完全に浮気じゃねえか‥!」
「‥‥‥あ、う、うん‥」
「本当に悪かった‥!」
「‥‥‥‥‥」
とてつもなく自己嫌悪に陥ってるモトハルには申し訳ないが、正直‥拍子抜けしてしまった。
よかった、他に女がいるわけではないと安心した。それと同時に嬉しくなった。
別に、夢に出てくるくらい、モトハルは私を思ってくれてるということでしょう?それなら、寧ろ嬉しい。でも、さらに嬉しいのは‥夢の中の私に勝ったということ。
「俺は‥お前が一番だから‥!」
夢は良く自分の理想通りになったりして、モトハルにとってその夢は最高だったはずなのに‥モトハルはこうして私を選んでくれた。
それだけで笑みがこぼれる。
「モトハル、許してほしい?」
「ああ‥なんでもする‥」
「じゃあ‥好きって言ってくれたら許してあげる!」
「そ、それで‥いいのか?」
「もちろん、気持ちの入った好きじゃないと駄目だよ?」
「お‥おう!」
モトハルは私の手を両手で包んで、力強く言った。
「俺は、愛が好きだ。もう、浮気なんてしない。愛を悲しませることはしない。‥やっぱり、こうして触れる‥温かい愛がいいんだ。」
「‥‥‥‥‥百点満点っ!!」
普段はこういうことを言ってくれないモトハルの愛の言葉は思った以上に嬉しくて、私はモトハルに勢いよく抱き着いた。
夢の中に出られるのは嬉しいけれどやっぱり感じる少しの嫉妬心と、彼の夢にまで出れたという喜び。
でも、彼がこうして現実の私を選び続けてくれる限り、私は精一杯、このおバカで情けなくてかわいい彼を愛そうと思う。
まっすぐ愛してくれる人 だから、好き。
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