春のように暖かいそれは





「ねえ、知ってる〜?」

まるで一時期ブームになったゆるい豆のCMのようなゆっくりとした口調で話す愛を見て俺は読んでいた漫画を閉じる。

「春の欠片。」

「なにそれ」

「春になったら現れるんだって」

「怖い話するなー!」

「怖い話じゃねえよ。勝手にロマンチックな話をホラー化すんの止めてくんない」

「じゃあ、なんだよ」

「桜の妖精なんだって。春の欠片」

「はあ?意味わかんねえ、ただのファンタジーかよ。」

「あんた、漫画読んでるくせに夢がないわね‥そんなんだからモテないのよ。非モテ男子」

「うるせえ!関係ないだろ!」

「うん、そうだね。ヨシタケは夢持っててもモテないもんね」

「あれ、おかしいな。なんか前霞んで見えねえや、あ、これ別に泣いてるとかじゃないから。男子高校生は傷付けられるの慣れてるから。」

「集まれ!春の欠片探検隊!」

「話聞けよ!」

「なんでも春の欠片を見付けると願い事が叶うらしいよ!」

「よくある話だな。」

「だから夢ないんだよお前は!私は春の欠片を見付けて叶えたい夢があるの。ヨシタケも探すの手伝って!」

渋る俺を部屋から引きずり出して、愛と俺は神社に来た。桜が満開なこの場所では確かに春の欠片というか桜の妖精が見付かってもおかしくはないと思う。

まあ、実際にそんなもんがいる訳ないとわかっているが。

「さあ、探そう。ヨシタケ!」

「はいはい‥」

わかってはいるが、隣で目を輝かせて周りを見渡す愛を見ると少しくらい手伝ってあげようという気持ちが沸いて来る。

溜息をついて周囲を散策し始めた。

「おーい、ようせいさーん、桜の妖精さーん」

「おい止めろ、声に出して探すな。端から見たらお前、電波だぞ。お前の頭が妖精さんだよ」

「私は願い事叶えられないよ」

「もういいよ。」

愛が真性のアホだと改めて気付いたところで俺は愛の頭に桜の花びらがついていることに気付いた。

「あ、待て。愛」

桜の木によじ登ろうとしている愛のところに行き、俺は花びらを取ろうと手を伸ばした。そこで愛が振り返る。

「え?妖精さん、見付かった?」

「!‥‥‥‥」

だが、花びらに手が届きそうになったところで俺の手が止まる。ついでに息も詰まった。

「‥‥‥‥‥‥‥」

振り返った愛の頭には桜の花びら。その姿が息を飲むくらい綺麗で‥俺は伸ばしていた手を引っ込めて言った。


「‥見付けた、春の欠片。」


「ええ!?ほんと?え、何処!?」

勢い良く周囲を見回す愛。その勢いで桜の花びらは頭から落ちてしまった

「あーあ、いなくなっちまった。」

「ええ〜‥そんな、」

「ドンマイ」

「ねえ、どんなだったの?やっぱり神々しさ溢れる妖精さんだった?」

「いーや、神々しさなんて微塵もなかったな」

「えー!?」

「ただ‥」

「?」

先程の光景を思い出しながら、不思議そうに俺を見る愛を見返し、言った。

「‥綺麗、だったな。」

「マジ?なにそれ超見たい!」

「どう考えてもお前には無理、」

俺は見たいとねだる愛の頭を叩いて踵を返した。

「ヨシタケだけズルい」

「偶然だ、偶然。」

「春の欠片‥捕獲失敗、」

「捕獲すんな。自分で自分の首絞めてどうすんだバカ」

「意味わかんないんだけど。」


春のように暖かいそれは
それはきっと、


「そういやお前の願い事って?春の欠片見付けたら叶うんだろ?」

「楽に稼げるバイトが見付かりますようにって。」

「働け駄目ニートが。」





な、なんだろこれ‥

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