繋いだ手のあたたかさと、





「最近、バイトどうだ?」

「最初はやっぱり大変だったけど‥慣れたら楽しいよ」

ヨシタケと愛は夕焼けに染まる街をゆっくりとした歩調で歩いている。

「でも、キッチンなんだろ?」

「ホールより、キッチンの方が私には合うと思って。料理作るの好きだし。まあ‥まだ皿洗いだけどね」

「いずれ作れるようになるって」

「そうだといいな」

「でも‥よかった。愛が楽しくやれてるみたいで」

「もう、心配し過ぎだよ」

心配げに愛を見るヨシタケを見て愛は笑った。だが、ヨシタケは真面目に返事をする

「当たり前だろ、辛いことがあったらすぐに俺に言えよ?」

「うん、ありがとう。でも‥ヨシタケだってバイトやってるんだし、大丈夫だよ」

「今のバイト‥続けられるのか?」

「もちろん!受かったんだし、やれるとこまで頑張るよ」

「そっか、愛がそう決めたことなら‥俺は応援してっから。」

少しだけ良くなった雰囲気にヨシタケの胸が早く鼓動を刻む。そして、すぐ近くにある愛の手を見遣る

「‥‥‥‥、‥」

何度か躊躇った後、思いきってヨシタケは愛の手を握った。

「やっ、だ、ダメ!」

勇気を振り絞り、掴んだ手はいとも容易く振り払われてしまった。愛のこの行動が予想外だったのか、ヨシタケは驚いた表情をした。だが、そんな表情も束の間、すぐに傷付いた顔をする

「わ、悪い‥イヤ、だったよな!」

「あっ‥ちが‥!」

「もうしねぇよ、ごめん‥。」

明らかに無理をして作った笑顔を見て愛は眉尻を下げた。

「ち、違う!」

俯いたヨシタケの顔を愛が掴んで強引に向かせる。そして、少し躊躇った後にヨシタケの顔の前に掌を見せた

「イヤだったんじゃない!ただ‥!今の私、手が荒れてるのーっ!」

「‥‥は‥?‥」

ヨシタケは目の前にある掌を見る。確かに、皮が剥けたり乾燥していて一目で見ても愛の手は荒れていた

「バイトで、皿洗いしてて‥だから最近、手が荒れてきて‥ヨシタケがイヤだったんじゃないの、本当は嬉しかった。でも‥こんな手だったらヨシタケに‥」

「‥‥‥‥」

「嫌われちゃうかも‥って、」

愛は申し訳なさそうにヨシタケに話す。だが、ヨシタケは愛の手を凝縮したままなにも話さない。

不安になって愛が掌を下げてヨシタケを見ると‥

「‥なんで言わなかった‥?」

「え?」


「なんでこんな大切なこと言わなかったんだお前はー!!」


ヨシタケはそう叫んだ後、愛の手を握って走り出した。

「え、ちょ、ヨ、ヨシタケ!?」

「駅前の薬局行くぞ!そんなになるまで放置して‥バカか!ハンドクリーム買いあさんぞ!」

愛は引っ張られながら精一杯、抗議をするがヨシタケは聞く耳を持たない。

「だから、私、手が荒れてて‥!わかったら放してよ!」

「俺がそんなこと気にするか!」

「!」

「愛の手が荒れようが、皺くちゃになろうがな‥!俺はいつでもどんな時でも、掴んで放さねぇから!だから嫌われるとか考えんな!」

ヨシタケは走りながら、大きな声で愛にそう告げる。そんなヨシタケの後ろ姿を見ながら、愛は一人静かに頬を染めた。


繋いだ手のあたたかさと、
キミの優しさに募る愛しさ。





手が荒れると手繋ぎたくなくなるよねっていう話。

(4/9)

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