04







「はぁはぁ…っはぁっ」

目の前に広がるのは霧に覆われた森。
どれくらいの広さなのかも見当がつかない。


当たり前だ、ここが「迷いの森」なんだから。


『―迷った者は二度と帰ってこれない』



「ビビってる暇があるか」


ゴブリンの卵を持って帰りゃいいんだ。


今にも覆い被りそうな木々、時々聞こえる何かの卯なり声。

目の前の視界がやっと見えるくらいだ、周りなんて白い煙しか見えない。






グゥグゥグガァ…


何か、聞こえる。

「…いびき?」

相当大きいいびきだ…耳に障る。
ノエルは両耳を掌で覆って再び走り出す。






やがて霧が晴れ、いびきの正体があらわになる。



「…っ!?」


長い耳が尖り、硬く光った歯を剥き出し、表面は毛がなく緑色でゴツゴツしている…



これが、ゴブリン…か?



立てば人の5倍以上はあろう、これ程大きな魔物がこんな近くの森で生活していただなんて知りもしなかった。
平和な村では魔物と遭遇するわけでもない。
父はこんな奴らと毎日闘っているのか…、と改めて父の凄さが身に染みる。


恥ずかしいくらい簡単に父を追い越すなんて言っていた自分への自信は何処へ行ってしまったのやら。



ゴブリンの丸まった腹の前には大きな卵がある。

ノエルは喉をごくり、とならして汗を拭う。


そしてゆっくり、ゆっくり近付いていく。
あと数メートル…数セン


バキッ
木の折れる音。


……チ?


「…グググガァァァァァァアッッ!!!」

目を覚ました雌ゴブリンは怒り声を上げる。



ノエルは一瞬固まって、叫ぶ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁああああッッッッ!!!!!」

ゴブリンに負けないくらいの叫び声だ。


そして無我夢中で疾走する。
霧を掻き分けて、この世の終わりにでも追われているようにただただ走る。


「やだやだ!!!まだ死にたくないぃぃぃぃい!!!!!」

情けない程叫ぶがゴブリンは赤い目を光らせ許す気配さえ感じない。




何も考えない。
考えれば次の瞬間は奴の胃袋の中だ。

妹の薬を取ってくると言って自分が死んだら、もとも子もない。




しかしノエルに立ちはだかるのは巨大な壁。

…行き止まりか。

ああ、もうだめだ…俺は死ぬんだ、と思った瞬間


―ピカァァアッッ!

巨大な壁…いや、扉が光だす。最近この光をよく目にするが、ここまで見る者を唖然とする程の光は初めてだ。

ゴブリンに追いかけられているのも忘れて大きなそれを見上げる。

そして驚くことに扉が勝手に開いたのだ。
待ってました、と言わんばかりに。

そしてノエルがぽかん、と口を開けたまま足を踏み入れると扉が閉まる。



中はどうやら遺跡のようだ。壁いっぱいに古代文字やら何やらが描かれている。

不思議な場所だ。
じめじめした感じはするのに寒さを感じない。
こんな一目につくところにあるのに苔だらけのこの場所は未だ発見されていないように思える。




やっと我に帰ったノエルは、はっとすると周囲を伺う。


「……だ、誰だ?」


十字架にノエルの同い年くらいの少女がくくりつけられているではないか。

ノエルが気付くと同時に、少女の足元からは暖かな光が舞い上がって、やがて体全身を包み込む。

手首や足首に巻き付いた蔓は溶けるように消え、少女は倒れる。



「おい、大丈夫か!?」

慌てて駆け寄り、首の脈をはかってやる。

…動いてる。

ふっ、と力が抜けてため息が溢れる。


それにしても、この子は一体何者なんだ…?
どうして、こんな場所に…



「…ん」

少女が目を覚ます。
大きな瞳を数回瞬きさせる。

「起きた!」

「…あなたは?」

「俺はノエル」

あっ、と目的をすっかり忘れていたのに気が付くと、すくっと立ち上がる。

壁に耳をくっつける。
ゴブリンの気配はしない。
おそらくターゲットを見失ったから退散したのだろう。

まだ、チャンスがある。


「俺急いでるんだ。帰り道、わかるよな?気をつけろよ、じゃあな!」


…あれ、扉が開かない。

「え、何で…」

「怪我、してますよ?」


知らぬ間に少女はノエルの足元に座っていて膝を指指す。

走っている時に木に擦りむいたのだろう。痛々しく血が流れ出ている。



「あぁ、これくらい平気。それより扉が…」


―ポワワワワン…

彼女はノエルの膝に掌を被せている。
そしてその掌から光が溢れているのだ。

…暖かい。


「!?」

彼女が手を退けると膝は元通りになっていた。
ヒリヒリ痛む感じもしない。
治癒術か…?



「……これなら」

「…はい?」



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