03


リンリンリン

鈴虫の合唱が聞こえる深夜。



「参ったな…あの石を取り返さなければ…」

男は腕組みをしながら落ち着かないという風に、その場を行ったり来たりして何やらブツブツと呟いている。



「あいつの手になんかに渡ったりしたら世界が危うい」
















「えぇッッ!!薬がない!!??」


「ごめんねぇ、さっき銀髪の男がぜーんぶ買ってったんだよ」

「全部ッ!!?」

「全部。貴族っぽい服装だったよ」


今朝早くからセオが熱を出した。
ここ最近はそういうのが多いから頭冷やしてればすぐに良くなるのだが、今日は一向に熱が引かない。
寧ろ顔を真っ赤にして息を切らしている。

ウォルバおばさんに急かされて薬を買いに家を飛び出したが…この有り様だ。


「今日の1時くらいなら新しいの入るけど…」

「時間がないんだ!!」

今は9時。後、四時間も待てる筈がない。


「あぁっもう!」

頼る宛もなく薬屋を出ると、頭を掻きむしる。
ノエルが困った時の癖だ。




「そこの君、何をそんなに困っている?」

突然知らない男に呼び止められる。
その見知らぬ男は背中に馬鹿デカイ袋を抱えて、顔をフードで深く隠している。


「薬が欲しいのか、だったら迷いの森へ行くといい」

「迷いの森…?」

迷った者は二度と戻れないという噂のある、あの森のことか…?


男は頷く。

「ゴブリンの卵を取ってくるんだ。熱に良く効く」


ゴブリンの卵が…??
そんなこと聞いたことがないが…。
今は信じるしかない、妹の命に掛かっているんだ。

「誰だか分かんないけど、ありがとな!んじゃ!」

「君、石を持ってるだろう」

「石…?」

「それを私にくれないか。道ばたで落としてしまってな」

どうして石のことを…?
まぁ、この際どうでもいい。
ノエルはポケットから石を取り出すと半分投げるようにして渡す。

そして、今にも転びそうな勢いで村を飛び出す。




南北に位置する「迷いの森」へ。

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