02






…う、頭が…痛い。

昔っからそうだ。

時々、目の奥で知らない女が俺を見ていて…。


哀しそうな…顔だ。
俺に何を訴えている?



『……けて……』

何だ…何を言っているんだかさっぱり分からない。




『…助けて……』



バッ!


「……またあの夢だ」


額にかいた汗を腕で拭き取ると暫く眉を潜めて考え込む。

最近、昔よりも声がはっきり聞こえてくるような気がする。
…気のせい、なのか…?


「……でも、何で助けてなんて…」


…ダダダダダダダ

ガチャッ


「おはよう、お兄ちゃん!」


ノックもせずに部屋へ入ってくるなりノエルに抱きつくセオ。


「…ああ、セオか」

セオはにっこり笑うと、少し不安そうな顔をしてノエルを覗き込む。


「なんだよ」


そう言って頭にぽん、と手をやる。




「また、変な夢見たでしょ」

不意をつかれて思わず手を離すとセオはまた、にっこり笑う。

彼女は時に鋭い。
何もかもを見透かしているように見える。



「…そんな顔してる」


特別不愉快そうな態度をとったわけでも、そんな顔をしたわけでもないのに。
彼女は真っ直ぐな瞳を離さない。



「…そう、か?」


「うん、……でもねシデスはお兄ちゃんに助けてもらいたいだけ。怖がらなくて大丈夫なんだよ」


セオはここ最近妙にシデスやらなんやらの話に凝っている。
不気味なくらいに。


「…そうだな」

だから俺は適当に答えてやる。
なるべくこの話はしたくないのだが…。



セオが大事そうに抱えているのはシデスとかいう奴が登場する本。
前から持っていたが、ここまで持ち歩くようになったのは最近からだ。


「まぁ、子供なんて変わりやすいもんだからなぁ。今はそれくらいが丁度良いんだよ、うん」


何を勝手に解釈しているのか、セオは首を傾げる。
そして思い出したように言う。

「そうだ!お兄ちゃんに見せたいものがあったの」


ちょっと待ってて、ノエルに本を渡すと屋根裏部屋を後にする。
朝から本当に元気がいい。



「…Last Cry」


セオが熱中している本の名前。
こんなに分厚いと読む気も失せる。


適当にページを開いてみる。12歳の子供が読む本とはどの程度なのか。




『「悪しき神」―シデスは世界を、人を愛していました。

自分がどんなにいたぶられようと、傷付けられようと…。

シデスは世界を優しく包み込む「母」だったのです。
それでも人々は彼女を否定しつづけました。
彼女が「人間」ではないから。
ただ、それだけの理由だったのに誰一人止めようとはしなかったのです。
人間ではないから庇う必要なんてないから。』



…あれ、おかしいな。
これ以上文章が書かれていない?

……真っ白だ。


こんなに分厚いのに…これじゃ、せいぜい30ページちょっとしかないじゃないか。




「……変なの」



…ダダダダダダダ



「お兄ちゃん、これ」

少し息の切らしたセオが手に握っていたのは…


―ピカッ!


突然それが輝き光を放つ。

…あの時と一緒の光。




「……す、すげぇ」

「この石、お兄ちゃんに反応してる」

セオは石をじっとみつめて言う。

「そんなことって…あるのか?」

答える筈もないのに、石に聞いてみる。
反ってくるのは沈黙だけ。



だとしたら妙な石だ。
人に反応して光る石なんて…。

「これ、お兄ちゃんにあげるね」

「え、でも大切なものなんじゃないのか?」

「家の前で拾ったの」

セオはいたじらっぽくニィっと笑ってみせる。


ノエルは苦笑して、それをポケットへやる。


「サンキューな」




バタンッッ!!


窓の向こうで何かが落ちた気がするのは俺だけだろうか…。


セオもその音を聞いて俺と目を合わせる。

反射的にノエルとセオは窓へ飛びついて下を見やる。



「「…梯子??」」

屋根裏部屋までの長い梯子が無造作に横たわっていた。




コメント
前はありません | 次はありません
名前:

URL:

コメント:

編集・削除用パス:

管理人だけに表示する


表示された数字:



- 3 -


[*前] | [次#]
ページ:



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -