01






「ノエル!ノエルったら起きなさいよっ…もう、アンタはいつもいつも……」


ザッバーンッ!



「うわぁッッ!!冷たっ」

「ふぅ、やっと起きたね」

「起きたって…起こすならちゃんと起こしてくれよ、ウォルバおばさん!!」



ウォルバおばさんと呼ばれた彼女は、少し太った脇腹に大きな樽を抱えると何もなかったかのように立ち上がる。



「早く顔洗っといで、ご飯できてるよ」

当然今の惨事で顔を洗う必要もないのだが…。
ツッコミをする間もなく小さな屋根裏部屋の扉はぱたんと閉じる。




「……もう必要ないっつーの!」


ノエルはびしょびしょになった頭を掻きむしる。




チュンチュンと小鳥が歌う。







ここはマチルダ。小さくも緑豊かな村。
自然や平和に囲まれたこの世界の中で最も小さいと言っても過言ではない。


ノエルはこの小さな村で生まれ、父の後を追うべく毎日剣の修行をしている。
彼の父は魔物狩りのメンバーでありながらリーダーを努めている。
決して有名とは言えない組織だが、剣の腕前は確か。


ノエルもそんな父を尊敬し、物心ついたころから剣に触れている。




「お兄ちゃんっ」

小さな可愛らしい少女が階段を駆けて来る。


「また髪の毛びしょびしょだよ、どうしたの?」

小首を傾げて微笑む。


「…セオ、ご飯だから下行けだってよ」

それだけ残すと小さな体の横をすり抜けてリビングへ向かう。



「??」

セオはノエルと七歳違いの妹。
とは言っても血の繋がりはない。
明るく無邪気で、他人思いの心優しい性格。
ノエルにとっては天使のような存在である。








「はぁっ!てやっ!」


烈日の中、今では生活の一部になった剣の修行も一日として休むわけにはいかない。
英雄になるとかならないとかじゃなく、それが己の道だと信じて…。



いつの間にやら、そっと花壇に水の入ったペットポトルとタオルが置かれている。


「…こーゆーとこは優しいんだけどなぁ」

タオルを額に当てつつも苦笑をするノエル。



―ピカッ


突然横の草むらから光が放たれる。
一瞬の眩い光…。

そしてカサリと草が音を立て、沈黙が流れる。




…誰か、いるのか?

眉を潜め周囲を伺ってみるが、特に誰の気配も感じない。

「…?」

疲れてるんだな、と大事にしている父の剣を鞘へ戻し、家の戸を開ける。













「やっと、やっと見つけたぞ…!」


―男の掌からは先程の眩い光が溢れかえっている。






「…悪しき神の守護者」








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