03







一同が恐る恐る目を開く。





発射ガスは、もうすっかり暗い夜空に溶けて消え。



フィアはびっくりして目覚めたのか、とろんとした目を擦っている。



「…何が、あったんです?」


少女は、はーっと大袈裟なため息をつくと銃を腰にしまう。





「これはあんた"達"の責任だ、それなりの罪は祓ってもらう」


「何をすりゃいいんだい」


「…親父っ?」




ナイフを股のポシェットから可憐に取り上げる。

それを慣れた手つきでクルクルと回して縛られた三人に近づいていく。



「…っ」

「くっそぉッ!!」



テッドは歯を噛み締めるが、それは単なる無意味な抵抗でしかないのだ。



今や太い縄に何重巻きにもされた三人には逃げることさえままならない。





そんなの…そんなのって、卑怯だっ!!


俺はどうすれば…!?





ノエルは堪らなくなって倒れてしまいそうな勢いで駆け出す。


「やめろぉぉおッッ!!」




ナイフが降り下ろされる。


だめだ!間に合わない…!!





「…え」



刃はゼファーの脇の縄を勢いよく引き裂いた。





「お宝、見つかるまで探してもうからな」











改めて見てみると物凄い大きさだ。
船内も大した設計になっている。



大きな食堂に、いくつもの空き部屋、綺麗なバスルーム。


達人の腕でもかなりの費用や労働を費やさなければ一生かかっても造れはしないだろう。





少女の名前はクルミ、船の操縦をしているのが弟のリオ。

二人は双子で宝物を見つけるため、船で各地を旅しているらしい。


「昔っからだったよな、どうすればいいか分からなくなると突っ走る癖」

テッドに冷めた目付きでいわれた。

「……ははは」


「まぁ、ノエル君にテッド君。結果オーライってわけでいいではないか」

…結果オーライで全てをまとめてしまいたくはないが、そういうことになるのだろう。




一部屋六人部屋で俺、テッド、ゼファー、ゴーイチおじさん、リオとフィア、クルミとで分けられた。



「宝物を見つけろと言われてもなぁ…」

ゼファーは参った、と言うようにベッドへ倒れ込む。



「もとはと言えば、てめェがわりィんじゃねぇかよ!!」

「まぁまぁ、テッド…」


やたら早く事を決められてしまったが、これで良かったのだと思う。

幸い誰一人、怪我人はいない。



「それよりノエルちゃん゙よォ゙」


ゴーイチおじさんは立派な海賊船の中にいるのが余程幸せなのだろう。
…船馬鹿より少しは親馬鹿になった方がいい気がする。

彫刻の施された壁やふわふわのベッドにうっとりしながら、のんきそうに言う。


「うん?」


「さっきのは凄かったなァ゙」



さっき…?
どういうことだ?



「海に飛び込んだ時だよ゙、フィアちゃん゙が溺れちゃってよォ……そしたら光がぱぱぁッてなってよォ」


「よォ」がやたら多いゴーイチおじさんの説明はあまりよく分からないが。
なんとなく思い出したような気がする。






俺はあのとき、溺れたフィアを助けようとして…。


もう駄目だって思った瞬間、フィアから光が溢れたんだったな。



初めて彼女と会った時と同じ暖かい、光だった。


それでその光に包まれて……後は覚えてないな。




「クルミ君、とてもびっくりしていたよ。私も君の力には驚いた」

ゼファーは誇らしげにそう言ったけど。

「…のわりには、さらっと言うんだな」


もともとそんな喋り方なんだか、わざとなんだか…。



「……ははは、見た目からして君には物凄い力が秘められていそうな気がしたからな」

「嘘言え」

「嘘ではない」


「それに、あれは俺のじゃない。フィアだ、きっと」


「フィア君だって?」

切れ長な目を丸くするゼファー。



ガチャ



部屋の扉が開く。




リオだ。
彼は常に船の操縦、管理をしているから、あまり顔を見せない。

…ということは船は今、止まっているということか。



「リオ、だっけ……おつかれ」

ってのは言っといた方がいいんだよな…。



「……」

彼はすわった目でノエルをちら、と見るだけ。

ベッドに腰を下ろすと枕元の棚から分厚い本を手にとる。



「なんか分かんねぇけど、暫くここにいなきゃいけないみたいで……」

「……」



「おい、うんとかすんとか言ったらどうなんだよ」

ノエルの話を聞いているのか聞いていないのか分からず、本を黙読し始めるリオにテッドは少しきつい口調で言う。


ノエルはテッドを宥める。
彼はただ緊張しているだけなのだと。




「俺はノエル、改めて宜しく。こっちはテッド。で、こっちがゼファーで隣がゴーイチおじさんだ。世話になるぜ」

「…いい」

リオはぼそりと呟く。



「…どうした?」


「…そんなのは、いいと言ってるんだ」

今度ははっきりとそう言われた。
ノエルは何て言えばいいか分からず黙り込む。




テッドはついに怒ってリオの胸ぐらを掴む。


「いい加減にしろよ」



テッドはこういう奴が大嫌いなんだ。
俺に気を遣ってくれている?のは分かるけど、逆に余計というか何というか…。



リオはテッドの手を振り払うと、落ちた本を持って立ち上がる。




「…リオ!」


扉が静かに閉まり。
ノエルはテッドを睨む。











リオは甲板にいた。


「…ごめんなっ!あいつ本当は良い奴なんだ、ただ素直じゃないっつーか…」



「…姉さんもどうかしてる」


「………どうして、そう思うんだ?」



リオの言葉が独り言だと分かってはいた。
でも、何故かそう言う理由が知りたくて、聞いた。


「宝なんてあるもんか、ただのいたずらに決まっているだろう…」

「信じないのか?」


「……姉さんは自惚れているんだ、何か目的を目指していれば…辛いことを…何もかもを、忘れられる」




「…志操堅固って言葉、知ってるか?」

「しそうけんご…?」



「己の主義や考えを堅く守ること……クルミなりに自分の中のルールってのがあるんじゃないかな」


変えられない意思とか、さ…。


「…ルールか」

「よく父さんに言われた、この言葉」



俺は特別記憶力が良いわけではない。

なのに……

どうしてこうも、父さんに言われた言葉っていつまでも覚えているのだろう。


何故か忘れられない。




「完璧主義の父さんは、この言葉が大好きだったんだ」

「……」


俺は完璧になんてならなくてもいいんだけどな。

ただ……父さんに近づきたい、それだけなんだ。






俺、何してんだろ。

焦ってもしょうがないって思うと、余計なことばっか考えちまう。

ウォルバおばさんにも、俺には言えないルールってのがあったのかな。


こういうことばっか考えてしまう自分が憎い。



でも、俺がここで立ち直ってしまったら…いけない気がする。


許されない、そんな気がするんだ。




「…変な奴だな、君」


あまり苦い顔をされて睨まれたので、笑っちまったよ…。

「褒めてんの〜?」





リオは空を見上げた。


―満天の星空。







人は昔、夜空を見て思ったのだと。



この星々は誰かが空に穴を開けてつくったのではないだろうか…と。









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