13









ちっぽけな墓。

でも、俺の罪は大きい。




「おばさん、ガーベラ好きだって言ってたろ?エマさんから貰ったんだ」


オレンジ色の綺麗なガーベラは墓を鮮やかに彩っていて、何だかウォルバおばさんが喜んでくれているような気がして、少し嬉しかった。



フィアには今出来ることをしろって言われた。

嘆いてたって何一つ変わらないもんな。


でも俺、自分を責めることで少しでも楽になるのかもって思ってたのかも。

実際そうだったしな。




「ガーベラの花言葉、神秘」


知らない男の声がして、ノエルは咄嗟に振り替える。




「お前…誰だ」


三十代後半くらいのヒョロっとした男。
その体格とは別に高い背。青白過ぎて不健康に見える肌は夜中に見たらビックリして魂が抜けてしまいそうだ。


奴はえらそうに俺を見下している。



「ノエル君だっけかな。昨日はどーもお疲れ様、随分な騒ぎになったそうだな」


…こいつ。


「何で俺の名前知ってんだよ」

男はノエルの言葉など軽く無視して淡々と喋る。


「君、父さんは?…ああ、そうか君の父さんはわざわざ家に帰って来るような優し〜い人間じゃないもんな。最低な奴だもんな、全く子供を見捨てるなんて。最低にも程がある」


「父さんを悪く言うなっ!父さんはそんなんじゃない!!」

「君も可哀想な奴だな、母は他界、父には見捨てられ三昧だ」



ノエルは胸ぐらを、がしっと掴む。
しかし相手の顔色はちっとも変わらない。


それどころか、これでもかっと言うくらいの呂律の回り様で畳み掛けてくるのだ。



「どっちも可笑しな奴だったよ。母ちゃんはお前の為に死んだんだぜ」


…?

母さんは俺の為…??



「おいっ、それどういう意味だ?」

「…さあ??」



「お前は何者なんだ」



男は「俺?」と指を指す。
…こいつの顔、なんかムカツク。

「俺ぁな〜、君の父さんが働く組織のメンバーの一人だよ。ただそれだけ」


「メンバー?」

ということは、父さんが今どこにいるか知っているのか?


「ジャックの野郎がどこへ行ったかは知らねぇけどよぉ」


ノエルの心を見透かした様に言う男。

ノエルの期待は一瞬にしてかきけされたのであった。



「…俺はそーゆー体質なのか?やたら変な奴が集まってくる」


「そりゃ、気の毒だな」

「ホントだよ」


男は隈の目立つ据わった目をぱちくりさせて聞く。

「でもよぉ、どうしてメンバーの俺がジャックと別行動してるんだーとか気かねぇの?」

「聞かねーよ、愚痴しか言わなさそうだもん」

「…ふーん、そう。まぁ、大した理由なんてないんだけどね。ただ、あいつといると堅苦しくて神経いくつあっても足りなさそうだったから脱け出して来ただけどよぉ」


ちゃっかり理由言ってんじゃん。

言いたくて仕方がなかったんだな、こいつ。



「でもさ、あんたがここにいるってことは、そう遠くはないってことだろ?父さんの居場所」


「まぁ、船で数時間あればつくだろぉしな。ドルチェ・ダルクだよ、あの雪国の方の」



…ドルチェ・ダルク?
その名前、聞いたことがあるな…。

確かゼファーの野郎が。



「おおっと、もうこんな時間だ」


男は手首の腕時計を見るとのんきにそう言う。

といっても油性マジックで描かれた決して時間の変わることのない腕時計だが。


「男ぁ行くぜ。君も村を出てくなりした方がいい。ここにいるだけ辛いしな」

酔っ払いみたいにフラフラ歩き出す。


いい奴なんだか悪い奴なんだか…。




「なぁ、本当に父さんの居場所知らねぇのか?」

「知らねーなぁ、そんな知りたいんだったら探してみたらどうだぁ??雪国へ行ってみる価値はあると思うぜぇ」






男の姿はいつの間にか消え去っていた。




「ドルチェ・ダルク…」


ノエルは立ち上がる。





…俺、まだまだ自分勝手過ぎる所があるんだ。

でもさ、これで…これで最後にするからさ、



だから……






「おばさん、俺旅に出るよ」




もう一度だけ最後の自分勝手を許してくれないか?

















「何処か出掛けるんですか、ノエル?」


フィアとゼファーが不思議そうな眼差しで見つめる中、ノエルは荷物をちゃっちゃとまとめて旅の準備を進めている。


「父さんを探そうと思うんだ、そしたら何か分かるんじゃないかって」


正直、父さんを見つけたとしてもセオの件については無関係なのだから、解決するなんてことはないのかもしれない。

でも、手付かずなのは俺としても嫌だ。


出来ることからする、それでいい。




「ドルチェ・ダルクに行こうと思ってる、もしかしたら其処に父さんがいるかもしれない」

「ドルチェ・ダルクだって、ノエル君?」


予想していた通り、真っ先に首を突っ込んだのはゼファーだった。



「じゃあ、私も着いて行ってもいいですか?」


「ああ、船の用意はもう出来てるぜ」

「「船…?」」











かもめが飛び交う青い空。


太陽が反射して、海の水面に虹をつくっている。

昨日の天気とは一変して再び真夏の暑さを感じさせられる。




小さな船の小さな操縦室からは、テッドとゴーイチおじさんのいつもの喧嘩声が聞こえる。



…おいおい、大丈夫なのか?
誤って沈没なんてさせないでくれよ…。


乗船料は貸しだからなってあいつに言われちまったよ。

曖昧に頷いといたけど、そんな金どこにも…。




「ノエル君、ちょっといいか?」


そう言って包み紙から出したのは紫色のビー玉…いや、飴か…?


「舐めたい気分じゃないぜ」


「いいや、セオ君の部屋で見つけたんだよ」

「これを?」


「あの姿では予測さえ出来ないが、感染病とは言い難い」


「何がいいたいんだよ、セオは少し前から軽い熱を出していだんだぞ」

それに気付いてやれなかったのは俺だけど。



「狙いはそこだ」


「狙い」?

ゼファーは誰か知らない奴がセオを陥れたとでも言いたいのか?


「恐らく奴は、それを感染病だと思わせる為、セオ君に軽い病気を体内に取り入れさせた。その軽い熱がセオ君の免疫力を次第に弱め…。そして、この飴の本来の目的であるあの姿にさせる副作用を加えたんだ。全ては偶然と見せかける為に」


「ゼファーはセオの件を事故じゃなくて、誰かの犯行だっていいたいのか?」


頷くゼファー。

俺もあんなの事故だって思っていたくはない。
誰かがセオにそんなことをしたなら、死ぬ間際までボコボコにしてやったさ。

でも、一体誰がセオに…?





「一度、私の書斎に寄ってもらいたいのだが…」

「分かった」


ノエルがあまりにもあっさり答えるので、少し意外そうな顔をするゼファー。

マントの内ポケットから分厚い本を取り出す。


「君にはこの本を渡しておく。この様子ではドルチェ・ダルクに着くのは二日近くかかりそうだ、時間のある時にでも読んでおくといい」


セオが夢中になって読んでいた本。
その頃から「シデスはいるんだよ」って言いはっていたが…。






「長旅に、なりそうだな」







゙始まり゙は



これからだ。





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