12








『…助けて』


またあの女だ。

どうして、俺に…。





『助けて』


嫌だ、嫌だ。
やめてくれ、俺は…



―俺はっ




「…ッ!!」



1時間…寝たか寝てないか。

昨日のあの悲劇を思い出すだけで胸が張り裂けてしまいそうだ。


まだ、信じられない。



俺がこの手で殺したのが、セオ…?

ウォルバおばさんは本当に逝ってしまったのか…?





涙が目頭から顎まで一直線に固まっている。




全部、全部"夢"なんだ。

きっと"夢"

おばさんやセオは、ちゃんと家にいて…いつもの様に俺に話しかけてくれるんだ。




『遅いじゃないか』

『お兄ちゃん、お寝坊さん』



「ちげぇよ」


聴こえた気がして。


「……ノエル」



代わりに応えたのは窶れた顔のフィア。

リビングにいつもの笑い声は全く聴こえない。




「…これ」

ただひとつ、テーブルに寂しそうにぽつんと置かれているマグカップ。





「レモネード…か」


『またそんな顔して。疲れによく効くんだよ』


そんな声が聴こえたような聴こえなかったような。

可笑しくて、ふっと笑った。



だから、この味嫌いなんだ。

いつまでもいつまでも自立できないでいる餓鬼を馬鹿にしているような……表現すると難しいけど、そんな味。




ガチャーンッッ



まだ六分目くらいまで残っているマグカップがフローリングに落下する。




手が物凄く震えるんだ。


キーンって頭痛がしてきて、
吐き気も襲ってきて。




セオを自らの手で殺してしまった、あの感覚が怖い。


まだ、助けられたのかもしれないのに…?

少しでも俺が冷静な判断をとっていたら…?




『いいか、ノエル。お前のこの剣は人を救う為に役立てるものだ。わかったな』


いつか蘇ってくる父さんの言葉。

俺は、その約束を守れなかった。
…それどころか、大切な人を…妹を、切ってしまった。



フィアが俺をトイレまで連れていってくれたお陰で恥ずかしい姿を見られないで済んだ。




「ぅ…えッ…、かはっかはっ」


ごめん、で許されたなら喉がぶっ壊れるまで言ってやる。

土下座で許されたなら、デコ血まみれになるまでしてやる。



でも、そんなんじゃ…許されない。

いっそ死んでしまおうか…そう思った。



「俺がっ、俺が死んで…セオが戻ってくんのかよッッ」


ウォルバおばさん、自分がいけないんだって言ってたな。


それは違う、いけないのは俺なんだ。

俺が家をとび出さなければ…セオもウォルバおばさんも、あんな目にはッッ!





ふらふらな状態でトイレを出るノエル。


そこにはまだ、フィアが立っていた。



「ノエル、そんな一人で抱えこんじゃ駄目です」

「抱えこんでなんか…」


「ノエルは悪くないです、きっと何か…」

「何にも…ねぇよ、俺がいけねんだ」

「違います!何か原因が…」

「原因なんてあるか!全て俺がッッ!原因はっ俺なんだよ!!」

「ノエル!」

「うるさいうるさいうるさいうるさいッッ!!フィアには何もわかんねぇ!!俺の気持ちなんてわかんねぇんだよ!!なぁ、分かるのか!?分かるのかよッッ!!?」



それは一瞬の出来事だった。

左頬がピリリと痛む。



「…フィア」

「……」


フィアは苦虫を噛み潰した様な顔をしている。

窶れたその顔に似合わない。


「…フィア、俺……」


込み上げてくる感情を必死に押さえて、絞り出すように一言を吐き出した。




「…死にたい」



フィアは呆れるでもなく怒るでもなく、ただ黙って、そっと抱き締めてくれた。


…どんな慰めの言葉を言われるより、ずっと…安心する。

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