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それは、お兄ちゃんが家へ帰る数時間前の話だった。












「げほっげほっ…はぁ」



とても胸が苦しかったの。

でも最近では、こういうの多かったから。




『もう家には帰らないよ!!知らねえッッ!!』


一階からお兄ちゃんが家を飛び出した音が聴こえて、セーも行こうとしたんだけど、目の前がふらついて立ち上がることさえ出来なかった。



その後、フィアおねえちゃんも出ていく音が聴こえて。





一人ぼっちで泣きたくなった、それで布団を被ったら、おばさんが部屋に来てくれた。



「具合は大丈夫かい?」


おぼんに乗せられた、お粥から白い煙がでていて、どんどん天井に上っていくのが面白かった。




「うん、大丈夫だよ」


だって、ただの風邪だもん。
最近、天気わるいし。



「そうかい」


おばさんは安心したように息をついたけど、どことなく哀しそうな顔してた。



「お兄ちゃんは必ず帰って来てくれるよ、優しいもん」


「…そうだね」

「うんっ」




「セオは…悲しくないのかい?両親のこと、知りたくないのかい?」


「悲しくないよ」

「……」


大好きな、お母さん…お父さん。
今でもすっごーい大大大好きだけど…


「セーには、もうひとりのお母さんがいるんだもん」

「…セオ」


セーがおばさんに抱きつくとおばさんも、ぎゅって抱き締めてくれた。

おばさんはね、香水のかおりがすごいの。
お兄ちゃんは臭い臭いって言うけど、セーはこの香り好きだなぁ…。


でも本当は…
最初はね、悲しかったよ。


「セーが大人になったら、またいつか会えるかな?」

「会えるよ、きっと。セオは大事な子供なんだからね。親ってのはね。子供のこと、いつまでも忘れらんないもんなんだよ」

「じゃあ、セー、大人になるの待ってる!それまで…」


…それまで、

セーと同じくらいセーのこと、まだ好きでいてくれるといいな。



「それまで?」

「それまでっ、自分磨き?しなくっちゃ!!」


いつの間にか目眩はなくなってた。

立ち上がって、タンスの中からピンクのワンピースを出す。


これね、おばさんがお誕生日に買ってくれて、一番お気に入りの服なの。



「大人になったらこのワンピースを着て、お母さんに会いに行くのっ」


おばさん、やっと笑ってくれた。

ほんとの笑顔で。













気づいたら眠ってた。
おばさんと話したの、もう昨日のことなんだね。



起きたのは、とてつもない身体の節々の痛みと吐き気から。



棚の上にある小瓶を開けて飴を一粒。

セーが広場で本を読んでいたら金髪のお兄ちゃんが優しく微笑んで「飴は好きか?」ってくれたもの。

お兄ちゃんもシデスを信じているみたいだった。
だからセーに「シデスは信じる子には、とても優しいんだよ」って。


凄く、いい人そうだった。




これを舐めると少しだけ楽になれたの。

おばさんに迷惑をかけたくなかったから、この飴に頼ってた。


最初は変に思ったけど、信じる子はシデスが守ってくれるってずっと思ってたから。




死んでしまいそうな程の全身の痛み、吐き気。

咳をすると布団の白いシーツに赤い液が飛び散った。




「嫌、おばさん…助けて」



怖い、怖いよ…。

痛い、痛い、痛い…。





もう、前さえちゃんと見えない。

階段を半分くらい転げ落ちた気がする。






「セオ?……セオッッ!!」


おばさんの声。

ああ、よかった。
これで助かる。




気持ちとは裏腹に遠退いていく意識。



痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。



皮膚が焼けるくらいに熱くなって…裂けていく感覚。



痛い…よぅ。




おばさん、今のセーの姿見て声なくしちゃったのかな。

口しか動いてないよ。

おばさんの声、全く聴こえないよ。



苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。



まるで水中にいる気分。

きっとここは、天国に行く一歩手前の所。


この苦しみに耐えれば素敵な場所へ行けるの。

今までしてきた罪をここで罰として受けているだけだよ。





ねぇ、おばさん。
どうして肩を押さえているの?

セーがやっちゃったの?
……ごめんね、今治してあげるからね。




お腹も怪我してるよ、痛いよね、すごく。


待っててね。
今、お医者さん連れて来るから。









痛い、やめて。

そんな酷いことしないで。


セーはただ、お医者さんを呼びたいだけなの。

おばさんが怪我しちゃったから。




小さな男の子。
そんな顔をしないで?

大丈夫だよ、少しだけ道をあけてくれる?




…あ、ウォルバおばさん。



駄目だよ?まだ、安静にしていなきゃ。

お医者さんなら今、呼びに行くとこだったから。




だから…だからね、

そんな怖がった顔をしないで安心してベッドで眠っていて?


そうじゃないと、おばさん死んじゃうよ。






「どういう…こと…」



お兄ちゃんも…帰って来てくれたんだね。

よかった、すごく安心したよ…。




お兄ちゃんが恐ろしいと言うような目で村を見渡してる。



―…え?



どうして?

どうして、皆倒れているの…?




全部、セーがしちゃったの?

嫌、セーこんなこと…ッ!






『殺して』



お兄ちゃん。
もう、楽になりたい。


いつになったら天国へ行けるの?

まだセーのしてきた罪は消えないの?



お兄ちゃん、早くセーに罰を与えてよ。

まだ、カミサマは許して下さらないみたいなの。





鋭利な剣がお腹を貫通する。
こんな糸も簡単に。



痛いんじゃない、嬉しかったの。
お兄ちゃんにセーの言葉が通じて。

お兄ちゃんだけなんだよ、ちゃんと聴こえているのは。
だから、言った通りにしてくれたんだよね…?




『ありがとう』




…この言葉も、ちゃんと届いているのかな?


身体が、すぅっと軽くなっていく感じがする。





―これでセーは天国へ行けるんだね…。




ありがとう、皆。


…ごめんね、皆。



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