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…え



俺の手元からは、グチャリと肉を貫く音。

奴の身体はそれを望んでいたかの様に、すんなりと刃を受けいれる。




その時、俺には聞こえた様な気がしたんだ…


「ありがとう」


って。






「…セオ、なの…か……?」

目の前の奴が、答える訳もなく。


黒い砂埃になって、消える。





「うわぁん、ままぁ」

ウォルバおばさんの後ろで小さくなっていた男の子は、とうとう泣き出して、何処かへ逃げて行ってしまった。



それと同じくらいに、ウォルバおばさんは力なく倒れ込む。





「おばさんッッ!!」


「ノエル、やっと帰って来たね…」

「なぁッ!一体何があったんだよッッ!?」


ウォルバおばさんは目頭から涙を流す。



「あたしが、気づいてあげられなかったんだよ…。セオのこと」

「……」


「あの子…あんなに苦しがっていたのに、助けてあげられなかった」

「全然!意味がわかんねぇよ!!なぁ!?」




ぽつん、ぽつん…




空から雫が落ちる。


…やがてそれは槍になって、激しく地面を打ちつける。




「俺、謝りたかったんだよッ!おばさんに!これじゃ…謝れねぇじゃん!!どうしてっどうしてこんなことになるんだよッッ!!!」


ウォルバおばさんの腕や腹部からは大量の血が流れている。


「俺があんなことしたから、こんなんなったのか!!?もう…もう!あんなことしないから!!二度としたりしないから!!!だから…だからッッ」


冷たい手がノエルの頬を撫でる。




「また、そんな顔する。テーブルにレモネードがあるよ、疲れに良く…効くんだよ」



「うっ…うぅ」


「あんたは…、あんたはね…笑ってないといけないんだよ。優し〜い子なんだから…ね?」


小さな子供に言い聞かせるような優しい口調。

高ぶったノエルの心を少し、落ち着かせた。




「うっ…うわぁぁあっ」



涙は雨に溶けて消え。
雨か涙かも分からぬ雫が頬を伝う。






…俺、気づくのが遅すぎたんだ。
父さんと母さんにこだわりすぎてた。


こんな近くに「家族」って言える存在がいるってこと。



どうして気づかなかったんだろう。
どうして今になって気づいてしまったんだろう。


馬鹿だな、俺。
もう涙が止まんねぇよ。

本当馬鹿だ、大馬鹿者だ…俺は。







ウォルバおばさんは静かに目を閉じる。



「駄目だ…!!目ぇ閉じちゃだめだッッ!!おばさんっ!ウォルバおばさん!!!」


「…あんたの両親」


「…え」




「凄く優しい人、だった…。あんたのこと…一番愛してた、よ……」



呼吸が、止まる。






「おばさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああんッッッッッッッッ!!!!!!!」




声が枯れ果てるまで名前を呼び続けた。

また元気なおばさんが帰って来てくれると、信じていたから。







絶望した顔のフィアといつの間にか村へ帰って来たゼファーが哀しそうな表情で見つめていた…。

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