09
「ごめん」
「どォ〜したんでい、ノエルちゃん"?謝りたい年頃かい"」
「何かあったの?」
やっぱり、エマさんの作る料理は美味しいや。
テッドもゴーイチおじさんも、エマさんも皆すっげぇ良い人だ。
こんな家庭、嫉妬する他何がある。
でも…
「俺、今日帰るよ。いきなり来て泊めてくれだなんて…わがまま言って本当、ごめん」
「…大丈夫よ〜?困った時はお互い様でしょ?またいつでも遊びに来てね」
「俺もノエルちゃんち泊まり行こーかなァ゙」
「おめェはいーっつーの」
「ありがとな、テッド」
「ありがとうございます、テッドさん」
「…ああ」
「…テッド、あのさ」
「何?」
―お前が羨ましいよ。
「いや、なんでもない」
「…はァ?」
「じゃあな」
言えねぇな、こいつには。
言うと俺、テッドのことマジで嫌いになりそう。
そのくらい羨ましくて…。
「やな空」
昨日と同じ、薄暗い雲が空を覆って今にも降りだしそうな天気だ。
「ノエルちゃ〜んっ」
振り返るとエマさんが胸にオレンジ色の花を抱え、駆けて来る。
「これ、ガーベラ。近所の花屋で沢山頂いちゃって」
花束をノエルに渡す。
透き通った綺麗な色の花弁だ。
「ありがとう。おばさんが好きな花なんだ」
「…良かった。あげたらウォルバさん、喜ぶわね」
じゃあ、と手を振ると再び駆け足で戻っていく。
「…降りそうですね、急ぎましょう」
「俺、帰ったら謝るよ」
道中、俺とフィアは急ぎ足で家路を歩いていた。
教えてもらえないのは今でも納得いかないけど、勝手に家を飛び出して迷惑をかけたのは俺だ。
フィアは何も言わなかった。
俺の言う言葉に相槌をうつだけで。
…謝ろう、素直に。
フィアに謝れた時と同じ様に。
「…!?」
村に帰って見たのは信じられない光景だった。
肩を押さえたウォルバおばさんは何者かから小さな男の子を必死にかばっていたのだ。
胸騒ぎがした。
心臓が飛び出しそうな勢いで鼓動を鳴らせる。
「どういう…こと…」
ウォルバおばさんの前に立っている人間…いや、あれは人間じゃない。
見たことのない、化け物だ。
「一体、何が…」
フィアも唖然としている。
信じられないのは、俺も一緒だ。
だって、普通。
人が血だらけで倒れているなんて、考えもしないだろう…?
頭が混乱して…破裂してしまいそうだ…。
俺達がいない間に何が起きたんだよ。
「…こんなのっ……こんなの意味がわかんねぇよッッ!!!」
馬鹿デカイ口から生えた馬鹿デカイ手、馬鹿デカイ身長に馬鹿デカイひとつの目玉。
この化け物も全部ぜんぶ…
夢なんだ、きっと。
知らない。こんな光景。
あの化け物が俺の夢に入ってきて村を荒らしたんだな。
何で、何で腕つねっても痛くねぇんだ?
……いいや、痛くなくったってこれは夢なんだ、きっと俺とウォルバおばさんは元々喧嘩なんかしてなくて…。
「怪我人の手当てをします!!ノエルはウォルバさんを!!」
未だ夢か現実かを理解できないノエルを余所に、倒れている人達の傷口に手を翳すフィア。
光が、深くドロドロと血の溢れる傷口を癒していく。
まだ微かに住民の身体は左右している。
「ノエルッ!!」
フィアの叫び声に我にかえる。
同時に殺意、憎しみ、哀しみが沸き上がってきて…とても正気とは言えない状態になった。
あいつが…あの化け物がウォルバおばさんを…皆を…ッッ!!!
ノエルは恐怖さえ忘れて化け物へズカズカと迫って行く。
…ノエルの手には既に鞘から抜き出された剣が握られていた。
"殺して"
何故だかそんな声が聞こえたような気がしたんだ。
ははっ
そのつもりさ…。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
理性を捨てたその声や行動に村は圧倒した。
「ノエル、その子はっ」
ウォルバおばさんは、はっとして声をあげた。
「…セオなんだっ」
コメント
前はありません | 次はありません
- 17 -
[*前] | [次#]
ページ: