05









「何かあったらウチ来いとは言ったけど、ここまで利用しろとは言ってねェぞ」


「いいじゃん、テッド…!俺、言っちゃったんだよ、もう帰らないって!」


「…はァ?何かあったのかよ?」

「…実は」







『無理ってどーゆーことだよっ!?』


『あんたには、まだ話せないって言ってんだい』


『「まだ」!?どうして!?自分の両親のこと知っちゃいけないのかよ!!?』

『…ノ、ノエル…ウォルバさん…』


『……』


『教えてくれよ!なぁっ!!』

『……』

『…ああ、そうかよ。分かった』

『…ノエル?』



『もう家には帰って来ないよ!!知らねえッ!!!』









「…あほかよ」

「だ、だって…!」



外からはテトラポッドを押し上げる静かな波の音とカモメの鳴き声がする。

幼馴染みのテッドはマチルダから数十分歩いた、そう遠くはない港――ラウスタンド港で生まれ、船乗りとして育てられた。


ひねくれた奴だけど、大事な友は放っておけない性格さ。




「なぁ、二、三日!二、三日だけならいいだろっ?」

「お前なァ…」



「お゙おうッ!!ノエルちゃんじゃねェかい゙!!」

突然、ドでかくて掠れた声が聞こえて、頭をわっしわっしと撫でられる。



「わっ、ゴーイチおじさん!?」


この巨体のおじさんは、テッドの親父さん。
すっげぇ豪快でたくましいんだ。

男の中の男なんだぜ。



「ウチに泊まってくか!?い゙いぞ、い゙いぞォ。ノエルちゃんならいつでも感激だからなァ」

おじさんはノエルの頭から大きな手を退けると、自慢のチクチク無精髭をジョリジョリ掻く。



「お、親父!!」

「あ゙ぁン!?何だテッド??オマエにゃ、24時間船の管理してろっつっただろォ゙が!!」


でも、息子にはすんごい厳しい…。

……カッコイイなぁ〜。





「貴方、テッドはさっき戻って来たばかりでしょう?それに何をそんなに…」


食堂から顔を出した小柄な人。
目が合って、俺は会釈をする。



「あら、ノエルちゃんじゃなぁい!」


この綺麗な人はテッドのお袋さんのエマさん。

優しくて、料理上手で何より美人なんだ。




「待ってて。今、紅茶を持って来ますからねぇ」


そしてまた、そそくさと食堂へ戻って行く。





「…何にやにやしてんだよノエル」

「いやぁ、何か羨ましくてさ」


こんな思い、ここでしか感じられないのかな。
テッドが羨ましくて、羨ましくて仕方がないんだ。

俺も何気ないこの時間が、何気なくいつも側にあれば…どんなに良かっただろう。




「ああ゙ァ!俺ァ、こーんなバカ息子じゃなくて、ノエルちゃんみてェな息子が欲しかったなァ゙」


「ちッ、何だとクソ加齢臭親父ィ!!さっきから黙って聞いてれば散々言いやがって!!」

「クソ加齢臭ゥ!!?よく言えたなァ??ブサイク針ネズミがァ!!」

「針ッ!!?…てめェ…!!」



俺の父さんは、今何をしているんだろう。
剣の稽古?それとも魔物狩り?

きっと…いいや絶対、人の役に立つことをしているんだろうな。

当たり前だ、父さんは俺のただ一人の憧れなんだから。



「はい、どうぞ?」


テーブルには紅茶とクッキーが出される。

「ありがとう」


ここに居ることで、何もかもが癒えていくような気がする。
ウォルバおばさんのことや…両親のこと、少しだけなら忘れられるかも。




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