03



「セオ君、この本は…?」


「Last Cryだよ」

にこにこしながらピーナッツクリームの塗られたサンドイッチを口にして「お気に入りなの」と付け加える。

ゼファーはその本を興味深いような神妙な顔つきで、じっと見つめる。




「こいつ、最近それ気に入ってて…」

セオの頭を豪快に撫でてやると、いやいやと言う風に手を払い除ける。



「どんなお話なんですか?」

フィアはイチゴジャム入りのサンドイッチを手にとる。


「…シデスのお話。シデスはね、もうすぐ目覚めるんだって」

「…シデス?」

イチゴジャムがパンから落ちてスカートに垂れる。



「千年前のシデスが封印された、その日に」

隣のゼファーをちら、と見ると苦虫を噛み潰したような少しだけ苦しそうな顔をしている。


…どうしたんだよ?


ノエルが聞くより早くゼファーはセオに問い掛ける。



「その話、誰に聞いたのかな?もうじきシデスが目覚めるということ」

何とか正気を保って…保ったように見せかけて。



「金髪の、お兄ちゃん」


「………私もこの本が好きなのだよ〜?でも無くしてしまって…」


「そうなの?…じゃあ貸してあげるから、すぐ返してね?」


まるでその言葉を待ってましたと言わんばかりに本を掻っ払うと、そそくさとマントの胸元に入れてしまう。


「セオちゃん、優しいです」

「今月中には返させてもらうよ」

…こいつ。



(何を企んでいるんだ…?)



おれはツナサンドをかじると、ふとそんなことを考えていた。



「ノエル」

ゼファーはノエルの視線に気付くと、ティッシュで口元を軽く拭いてから言った。



「…んぁ?」


「私は明日、一度帰らせてもらうよ」



「…もう帰って来なくていいっつーの」

急に奴の企みを恐く感じて、本気でそう思って、つい口に出してしまった。



「いや、もう少し住まわせてもらいたいのだかな」


「監視の理由は、あの石が関係してたんだろ」

「…別に監視では…」


「もう、返したんだからいいだろっ?得体の知らない奴は家に置いてねぇの!なぁ、分かる!?」

「それは…」




沈黙が続いて気まずく思ったのか、
フィアはわって入る。



「…そしたら、私の方が得体の知らない者ですよ」

「…」

ゼファーは黙り込んだままだ。


「私が言えることじゃないかもしれないけど、どうしてゼファーさんだけ…」

フィアはとても申し訳なさそうな、哀しそうな顔をして俺を見ている。


「こいつは、何か企んでる。だからだよ」

「お兄ちゃん、家族は多い方が楽しいよ?」



セオにも言われて俺はさらに意地を張ってしまう。

二人のことを考えて言ってんのに…。
怪しいだとか、危険な奴だとか…そういう警戒心はないのだろうか?



まるで我が儘な子供をもった親のような気持ちになってしまう。


これ以上無駄な言い返しをすると罪のない二人に当たってしまいそうだったから、俺は我慢して口をつぐんだ。







「…帰るぞ」




セオの大事な時間をぶち壊しにしてしまった…。

むしゃくしゃして頭をぼりぼりと掻きむしった。


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