01
「お気に入りの場所?」
ノエルは眉を上げて言う。
「うん、お花がね、いーっぱい咲いててすっごく綺麗なの!」
「セオ君はロマンチストなのだね、私と同じじゃないか」
「頼むから同じにしないでくれ」
「ねね、お兄ちゃんたち!皆でお出かけしようよ!サンドイッチ持ってピクニックみたいにさ!」
もともと三人暮らしだった生活から一変してよほど嬉しいのだろう、今まで勿体なぶって教えてくれなかった「お気に入りの場所」とやらへ連れて行ってくれると言う。
「お気に入りの場所…私、見てみたいです!」
フィアも目を輝かせて頬に手をあてる。
「よぉっしッ!んじゃ、そうと決まれば、出発しんこーう!!」
マチルダからそう離れていないジメジメした洞窟の中。
「お気に入りの場所」はこの先だと言う。
「暗い…ですね」
「…そうだな、何か出そうな感じ」
「まぁまぁ、そう怖がるでない君達…………ヒェェッッッッ!!!??」
突然ピタッと小さな音がしてゼファーは思わずフィアにしがみつく。
「ゼファーさん?」
「いいい、今ッッッかかか顔に何か垂れた…!!魔物の唾液だな!!あ、あまりに私が美味しそうだからって隙を狙ってかぶり付こうとしているのだろうッッッッ!!!さささ、さぁ出てきたまえ!返り討ちにしてるれる!!」
「「「…………」」」
三人とも身構えをして周囲を警戒する。
「あはは、水だよ、水。ここ良く垂れてくるの!…冷たっ」
「「「…水?」」」
「ここの洞窟の上、滝になってるの!」
「……ははは、二人とも、見事に引っ掛かってくれたな、私の作戦に。私が本当に怖がっていると思ったのだろう?すまない、昔から芝居が上手だとよく言われてな」
「…すんごい上手な芝居なんだな」
一番ビビッてた奴がよく言う。
「さっきから何か聞こえると思っていたら、水の音だったんですね」
確かに。よく耳を澄ませば微かに聞こえてくる。水の流れる音。
「でも、セオ。一人でこんな所来たら危ないぞ」
「一人なんかじゃないよ、お母さんと一緒だから」
セオは無邪気な笑顔で、そう答えてみせる。
「昔ね、一度だけこの場所へ来たことがあるの。セーが、お母さんと手を繋いで」
「……」
「……」
フィアとゼファーはそれだけで彼女のことを理解して黙り込んでしまう。
俺はセオの母親を見たことがない。
…セオと出会ったあの日の記憶が、蘇ってくる。
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