06
「最近、誰かに見られてるような気がするんだけど」
窓下の梯子を見るなり、そう呟く。
「何かの間違いだよ、お兄ちゃん」
「まだ、安静にしていた方が良いです」
そのわりには、部屋がうるさいが…。
フィアとセオはすっかり仲良くなってババ抜き何かをしている。
「…あ、ババ残りました」
「やったー!セーの勝ち!!」
「セオちゃん強いです!」
もう一回勝負しましょう、とカードをシャッフルし始める。
「ねぇ、お兄ちゃんっお兄ちゃんも一緒に…」
「「あれ?」」
さっきまで同じ部屋にいたノエルが急にいなくなっている。
「絶対誰かいるはずだ…!」
俺が見つけてやっつけてやる、と腕の裾を捲る。
「そもそも、この梯子はウチのだけど、ずっと倉庫にしまっといたやつなん…」
―そうだ!倉庫だ!
しめしめ、と家の裏にある倉庫へ向かう。
すっかり草が生い茂っていて小さな扉を見つけるのはむずかしい。
普段は全然入らないから位置さえ把握できていない。
「…あった」
雑草をかき分けながら取っ手を引っ張って中へ入る。
案の定、ハンモックの上で場をわきまえるでも警戒するわけでもなく、ぐーすか眠ってある一人の男性。
―…何だこの落ち着き様…
「おいお前、どーしてここにいるんだぁ?」
わざとらしく言うと、男性は「…あ?」と寝ぼけたのはつかの間、跳ね起きてハンモックから落ちる。
「おおおお前は誰だぁッ!!!おお俺を殺しに来た悪の組織だな!!!」
「いやお前が誰だよ」
暫く瞬きをして目を擦らすと驚いて言う。
「……何だ、少年か」
「てか、俺のこと知ってるんだ。え、じゃさっきのは寝ぼけてたのかよ…」
大の大人?を前に呆れ果てるノエル。
大きく息を吸い上げたと思うと早口で喋り出す。
「いいか?今から私の自己紹介をしてやる。どうにも私のことを知りつくしたいと少年が言うからなぁ、耳の穴かっぽじってよぉおッく聞いておけよ!?私は超一流天才科学者のゼファー・ディコス。ここから海を跨いで約1250k離れた所の…正確には1248.7668kだな、ドルチェ・ダルクの超一流天才科学者だ!」
……超一流天才科学者って二度言わなかったか??
「…変な奴だな、言うの遅れたけど」
「何!?聞こえなかったって!?仕方がないもう一度言ってやろう、いいか?今から私の自己紹介をしてやる。どうにも私のことを知りつくしたいと少年が言うからなぁ、耳の穴かっぽじってよぉおッく聞いておけよ!?私は超一流天才科学「もういいってーのッ!!」
ノエルが割って入るとようやく「…そうか」と一歩ひく青年。
大体に自己紹介しろだなんて一言も言っていない。
改めて見ると、何処かで見覚えのある顔だ。
…もしや
「…お前昨日の、迷いの森へ行けって言った男だな!!こーんなでかい袋背負ってフード被った」
「……さぁーあ??」
「何でそこで嘘つく……んじゃ何だよあのでかい袋は!」
片隅に置いてあるのは、あの時の袋と同じものだ。
その中の薬の一つをとって奴に押し付ける。
「何でここまでする必要があったんだよ!」
「…ぎくり」
「俺はお前のせいで死にかけたんだぜ!?俺だけじゃない、セオもな!!梯子使って様子伺ってたんだろ!!」
「…それは悪かった!でも助かったんだから結果オーライだろう?」
とうとう大きな溜め息をついて怒る気さえなくす。
「…………何が目的なんだよ」
「君に言っても信じてはくれないだろう」
「だったら帰れ」
「駄目だ、君がいるかぎり私は何処へでも同行させてもらう。君を放って置くのは世界を見離すのと一緒だ」
世界を…?
一体何を言っているんだ、こいつは。
「意味が分からないな」
「だったら、私の書斎に来てはくれないか」
「断固拒否」
「…君と家族には迷惑を掛けるつもりはさらさらない。ここを借りていいか?」
奴と話すのも、もう疲れた。こいつと居るといくら精神があっても持ちやしない。
「……勝手にしろ、家には入ってくんなよ」
本当、何もかも謎な男だ。
男は目を輝かす。
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