はじめてのお願い


「そうじゃないだろ俺…!」

奈々詩と別れた後、司馬昭はガシガシと頭を掻いた。
言いたい事もまともに言えず空回りをしてしまった。

「子上殿、またなの?」

呆れた顔をした元姫が溜め息を吐く。
司馬昭は奈々詩と仲の良い元姫に度々相談に乗ってもらっていた。

「付き合ってから長いんでしょう?なら、たまには甘えてくれって普通に言えばいいじゃない」

「それが出来たら苦労しないんだよ…」

今度は司馬昭が溜め息をついた。
奈々詩と司馬昭は恋人関係にあたる。
責任感が強い彼女は何でも自分の力で解決してしまう。
その上気遣い上手で、甘えてくれと言いたいが寧ろ甘えてるのは司馬昭の方なのだ。

「丁度いいわ、当たって砕けてきなさい。奈々詩!子上殿が話があるって」

「なっ…!」

丁度、中庭を挟んだ目の前の廊下を通り過ぎようとしていた奈々詩を見つけると元姫は奈々詩を呼んだ。呼ばれた彼女は急ぎ足でこちらにやってくる。
頑張りなさい、と一言残して元姫はその場を後にした。

「あの、昭様。元姫様はよろしいのですか?行ってしまわれますよ?」

「なぁ、奈々詩…」

司馬昭は奈々詩の両肩を再び掴んでじっと目を見つめる。
いつにもなく真剣な顔と声色の彼に胸が高鳴った。
はい、と返事はしたがドキドキしていてちゃんと声になったか分からない。
司馬昭の言葉を待つと顔が近づいてきた。目線の高さが近くなる。

「俺が言うのもなんだけど、たまには甘えてくれ」

よし、言えた!と司馬昭は体制を直して心の中でガッツポーズをする。
一人で高揚感に浸っていると突然、手から温もりが消えた。
かと思うと胸の辺りにそれがやってきた。

「なっ、奈々詩…?」

戸惑った声で司馬昭が奈々詩の名前を呼ぶと、彼女は司馬昭の胸板に摺り寄せた頬をバッと彼から離した。

「もも申し訳ありません!甘えるってこういうことなのかなと思いまして…!」

「いや謝る必要ないけどよ、甘えるって普通は俺に対してお願い事をするんじゃないのか?」

「昭様にお願い事を…?と、とんでもないです!」

顔を青くして首を振る奈々詩を落ち着かせるために司馬昭は彼女の頭に手を置いて優しく撫でた。

「悪かった。強要してるわけじゃないんだ。俺ばかり甘えてるからお前に甘えてもらいたくてな…」

「昭様…。私、頑張ってみます!」

「あぁ!って、俺にしてもらいたいことを言えば良いだけだろ?」

どこか空回ってるような気もするが、自分の為に頑張ろうとする奈々詩が可愛らしくてくつくつと笑う。
やっぱり甘えているのは自分の方だなと思っていると、胸板に奈々詩の手が添えられた。

「あの、抱きしめてもらっていいですか?」

「ああ!もちろんだ!」

恥ずかしそうにお願いをしてくる彼女に嬉しくなり、ぎゅっと抱きしめた。
少し力を強くしてしまったかと思ったが、奈々詩は嬉しそうに抱きしめ返してくれた。



...終...



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