想い募りて
奈々詩が泣き止んでから司馬懿は一つの疑問を彼女に投げる。
「お前は夜な夜な此処に来るのか?」
そう言うと奈々詩は、ばつの悪い顔をした。
暫く沈黙した後に彼女が口をゆっくりと開く。
「その…お祈りを……。司馬懿様が無事に帰って来ますようにって。
女官の方には内密にと言ったのに…こんなことをしているなんて子供じみて恥ずかしいですから」
月には不思議な力がある。
奈々詩はそう女官に話を聞き、自室では月が見えないからと、わざわざこんな所に来たと奈々詩は言う。
不安で仕方なかった彼女に女官が安心させようとしたのだろう。
それよりも自分の為にここまでする彼女に堪らなく愛しさが募った。
「そう恥ずかしがることはないが…嬉しいことを言ってくれるな馬鹿めが」
片手で奈々詩を引き寄せて腕の中に納める。
奈々詩は司馬懿の背中に腕を回して、今までの時間を取り戻すように彼を抱き締める。
窓の僅かな隙間から差し込む月の光の元で抱き合う二人は幻想的に見えただろう。
それから二人は寄り添うように月を眺めた。
「戦なんて早く無くなってしまえばいいのに」
「私がすぐに無くしてやる」
「…はい!司馬懿様、私は“いってらっしゃい”と言い、お見送りますので
必ず“ただいま”と帰って来てくださいね?」
またちゃんとお祈りして待っていますから。そう言うと奈々詩は司馬懿に向かって微笑んだ。
「無論だ。必ず奈々詩…お前の元に帰ってくる」
誓うように、幸せを願うようにお互い口をつけた。
二人の想いは永遠に。
共に過ごす時間が長ければ長いほど募りて……
...終...