想い募りて
倉の前に来ると、戸が僅かに開いていた。
あまりしたくはないが司馬懿はその隙間から中を除き見た。
奈々詩がいるのは分かったが、ぼそぼそと何かを言っているようだ。
こんな薄暗い場所で彼女以外の他に誰か居るのかと思うと気が気ではなかった。
戸を勢いよく開けると案の定、奈々詩が驚いた顔でこちらを向く。
中を見渡すと奈々詩しか見当たらなかった。
「司馬懿…様…?」
夢を見ているような、信じられない、といったような消え入りそうな声色で奈々詩は呟く。
司馬懿は彼女の問いに返事をすると一歩一歩近づく。
目の前まで来ると月明かりで漸く彼女の顔が見えた。
今にも泣きそうな、そんな顔だった。
「おかえりなさいませ…!」
と言うと同時に奈々詩は司馬懿に抱きついた。
司馬懿は奈々詩の肩と頭に手を乗せる。
頭に乗せた手は彼女を愛しそうに優しく撫でる。
「戦が長いようでしたので心配で心配で…」
「心配かけてすまなかった。今、帰った」
そう言うと奈々詩は体を少し離して、また、おかえりなさいと言った。