想い募りて
戦が思っていたより長期戦になってしまった。
冷静と言われる司馬懿らしくなく、早足で夜の屋敷に戻る。
屋敷には司馬懿の妻の奈々詩が帰りを今か今かと待っているに違いない。
彼女を安心させたい。
彼女の顔を早くみたい。
という思いが司馬懿を駆り立てる。
屋敷の門を潜ると辺りを見渡す。
戦が終わって屋敷に帰って来るときは、いつも奈々詩がこの辺りで出迎えてくれる。
しかし今日は居なかった。
自分が今日帰ってくるのは事前に屋敷の者に知らせたはずだ。
仏頂面でその場に立ち尽くす司馬懿に、たまたま通りかかった女官二人が恐る恐る彼に近づいて声を掛ける。
「お帰りなさいませ、司馬懿様。如何なされました?もしかして奈々詩様ですか?」
「もう就寝しているのか」
時間も時間だ。寝ていてもおかしくはない。
司馬懿は、ただ自分が帰ってきたことを彼女に伝えたかった。
「あ、今の時間帯でしたら離れの倉にいらっしゃるのでは……」
「ちょっと…」
一人の女官がそう言うともう一人の女官が顔を曇らせた。
その後、何か思いついたように司馬懿に向かって一礼するとその場をそそくさと去った。
「何か良からぬことでもあるのか…」
仏頂面だった顔はさらに不機嫌さが増し、また早足で女官が言っていた離れの倉に向かった。